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相続発生前の対策として土地賃貸における普通借地権の設定について

相続発生前の対策として土地賃貸における普通借地権の設定について解説します。

今回の事例

丙は、甲と乙と同居して生活しています。甲乙ともに高齢のため、相続対策を考えたいと思っています。
甲の財産には、自宅不動産のほかに遊休土地があるのですが、預貯金などはほとんどなく、乙や丙も高額の預貯金はありません。現状では不動産の評価額が高く、相続税を納税できなくならないかが心配です。ただし、乙は、甲の所有する土地は先祖から譲り受けた財産なので、売却はしたくないと言っています。
このように相続財産の中に所有する土地がある場合、あらかじめ土地に普通借地権を設定して賃貸しておくことが有効な相続対策になります。今回は、相続発生前の対策として土地賃貸における普通借地権の設定について効果とリスク及び注意点について解説します。

効果とリスク及び注意点

効果

(1)借地権設定後に相続があった場合、賃宅地として更地の場合と比べて評価額を軽減できます。土地の評価額は、借地権の設定されている賃宅地の場合、更地の場合に比較して安くなります。そのため、借地権設定後に相続があった場合、評価額を軽減することができます。また、相続開始の時期が借地権設定契約の満了日に近い場合、定期借地権の場合は間もなく契約が終了すると見込まれるので更地に近い評価になりますが、普通借地権の場合は契約が更新されると見込まれるので、定期借地権よりも評価額が下がります。このような場合は、定期借地権を設定するよりも、普通借地権を設定しておく方が有利です。
(2)要件を満たせば、小規模宅地等の減額特例の適用が受けられる。相続で土地を取得した場合、その土地が生前に被相続人の居住用または事業用として使用されていた宅地であったときは、その土地が生活維持や事業継続のために必要であることに配慮して、一定の要件のもとで土地の評価額を一定割合減額する特例が設けられています。賃宅地についても、貸付事業用宅地等 として、被相続人の貸付事業用宅地であれば、被相続人の親族が、①貸付事業を相続税申告期限までに承継し、かつ継続すること、②その宅地等を相続税申告期限まで保有することを要件に、限度200㎡まで50%の減額となります。
平成30年4月1日以後の相続又は遺贈については、相続開始前3年以内に貸付けを開始した不動産については、貸付事業用宅地等に該当しなくなりました。ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付けを行っている場合には、この限りでありません。
(3)手続が煩雑な定期借地権に比べ、普通借地権は借地借家法などに反しない限り、契約当事者間で任意に契約できます。定期借地権の場合、書面で特約を定めなければならず、特に事業用定期借地権では必ず公正証書による必要があるなど手続が煩雑になります。これに対し、普通借地権の場合は、借地借家法に反しない限りは契約当事者間で任意に契約することができます。

リスク

(1)更新拒絶に正当事由がなければ法定更新されることになるので、半永久的に土地の利用権が地主に戻らないおそれがあります。普通借地権の場合、借地借家法により、期間満了時の更新が認められており、賃貸する側である借地権設定者は正当事由がなければ更新を拒絶することができません。そのため、正当事由がない限り、半永久的に土地の利用権が戻らないおそれもあることに注意する必要があります。
(2)権利金が多額になる。
(3)相続開始が契約締結時から期間が経過していない場合、定期借地権の方が有利になる。

注意点

(1)土地の取得からいつ貸し出すかによって譲渡所得に対する課税が異なります。土地に地上権や賃借権を設定して権利金等を受け取った場合、その金額が借地権の設定された土地の時価の2分の1を超える場合には、譲渡所得として課税されます。この譲渡所得は、譲渡した年の1月1日において、所有期間が5年を超えるものを長期譲渡所得、5年以下のものを短期譲渡所得として区分され、税金の計算が別々に行われているので、いつ貸し出すかによって課税が異なることに注意する必要があります。
(2)相続開始前3年以内に貸し付けた場合には、小規模宅地等の減額特例の適用が受けられない場合がある。

土地の賃貸における普通借地権の設定

借地権

借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます。その存続期間は、原則として、30年と定められています。

普通借地権

借地権設定契約を締結する場合、通常は、普通借地権を設定することになります。
借地借家法では、普通借地権について、①借地権の存続期間満了する場合も、借地権者が更新を請求すると、建物がある場合に限り、更新の日から10年(最初の更新は 20年)とするほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされること(法定更新)、②借地権設定者が更新拒絶するためには正当事由が必要であること(更新拒絶の制限)、③契約を更新しない場合には借地権者が借地権設定者に対して建物の買取りを請求できること(建物買取請求権)などの借地権者を保護する規定が定められています。また、これらの規定は強行法規であり、これらに反する特約で借地権者に不利なものについては、無効とされています。

賃宅地の評価額

普通借地権については、借地権者に有利に定められていますので、土地上に普通借地権が設定されている場合、土地の評価額が下がります。そのため、相続対策としては、評価額を軽減するという意味で、有効な対策になるのです。

更新拒絶の正当事由

普通借地権の存続期間が満了する場合に、借地権設定者が更新拒絶することに正当事由があるかどうかは、借地権設定者及び借地権者が、それぞれが土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過(地代の不払がなかったか、更新の期待があったか等)、土地の利用状況(建物の状態等)並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付(立退料の支払)をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して判断されています。このうち、特に重要な要素は、借地権設定者及び借地権者のそれぞれにとっての土地の使用を必要とする事情です。借地権設定者にとって、土地の使用の必要性がない場合には、正当事由が認められるのは難しくなります。

まとめ

相続財産の中に所有する土地がある場合、あらかじめ土地に普通借地権を設定して賃貸しておくことが有効な相続対策になります。もっとも、普通借地権を設定した場合は、契約の更新、借地上の建物の買取等で借地権者が法律上保護されていますので、土地を賃貸する側にとってはリスクも考えられます。
そのため、定期借地権を設定する場合との比較考慮等を含めて、個別事情の下で慎重に検討する必要があります。今回の事例では遊休土地があるので、これを活用して相続対策をしておくことができます。売却を避けたい場合には、土地を建物所有目的のある方に賃貸して普通借地権を設定しておくことで、賃料収入を得ることができ、また、相続に至った場合には評価額を軽減させることが可能になるのです。もっとも、普通借地権を設定した場合、更新拒絶に正当事由がなければ法定更新されることになるので、土地の利用権を戻してもらいにくい可能性がありますので、様々な事情を考慮した上で、普通借地権を設定すべきかは慎重に考える必要があります。
今回は、相続発生前の対策として土地賃貸における普通借地権の設定について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。

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