
続発生前の対策として推定相続人の廃除について解説します。
今回の事例

高齢の甲には、妻は亡くなっているが乙と丙の子どもがいます。甲が高齢のため乙とその妻、乙の子である丁とで同居生活を始めたが、同居してから乙とその妻は甲に対して暴力をふるうようになり、甲はたびたび病院の治療を受けていました。そのため、甲は乙には自らの財産を一切相続させたくないと考えるようになりました。
このような場合、被相続人は、どのような方法によって推定相続人に対する自らの財産の流出を食い止められるか、食い止められたとして、その場合の相続関係はどうなるかについて、推定相続人の廃除の効果とリスク及び注意点について解説します。
このような場合、被相続人は、どのような方法によって推定相続人に対する自らの財産の流出を食い止められるか、食い止められたとして、その場合の相続関係はどうなるかについて、推定相続人の廃除の効果とリスク及び注意点について解説します。
効果とリスク及び注意点
効果
(1)廃除された推定相続人は初めから相続人ではなかったものとされ、遺留分の権利も全て失うため、遺産分割をスムーズに進めることができる。
(2)廃除対象者が同意しない場合や、所在不明の場合でも、手続を進めることができる。
(2)廃除対象者が同意しない場合や、所在不明の場合でも、手続を進めることができる。
リスク
(1)廃除された推定相続人が死亡した場合、その代襲相続人には廃除の効果が及ばないため、その代襲相続人からの相続権の主張を否定できない。
(2)遺言で廃除する場合、遺言執行者を定めておかないと、円滑・適正な遺言執行が妨げられるおそれがある。
なお、遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現する人をいい、遺言で指定される場合と家庭裁判所により選任される場合とがあります。
(2)遺言で廃除する場合、遺言執行者を定めておかないと、円滑・適正な遺言執行が妨げられるおそれがある。
なお、遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現する人をいい、遺言で指定される場合と家庭裁判所により選任される場合とがあります。
注意点
(1)家庭裁判所への申立てが必要です。廃除の方法としては、家庭裁判所に申し立てて調停・審判を行う生前廃除と、遺言によって行う遺言廃除があります。
(2)法的効果が多大なため、些細な理由では認められません。廃除が認められるためには、次のいずれかの事由に該当する必要があります。①被相続人に虐待をしたこと。②被相続人に重大な侮辱を与えたこと。③推定相続人にその他の著しい非行があったこと。それ以外に、①被相続者の殺害等、②殺害の不告発者等、③詐欺・強迫による被相続者の遺言等の妨害者、④被相続人の遺言等についての詐欺・強迫者、⑤被相続人の遺言書の偽造者等は欠格事由に当たり、相続欠格の効果が当然に生じることとなります。
(3)廃除の効果は代襲相続には影響しません。被廃除者の子の相続権については、廃除の効果は被廃除者の子には影響しないため、被廃除者に子がいれば、相続の時はその被相続人の孫か被廃除者の相続分を代襲相続します。
(4)一度廃除された相続人であっても、「推定相続人の廃除の取消し」によって相続権は回復します。被相続人は、生前でも遺言によってでも廃除の取消請求をいつでもすることができますが、権利関係を明確にするためにも家庭裁判所の関与を必要とします。そして、遺言による廃除に関する規定は、廃除の取消しに準用されます。
(5)兄弟姉妹が推定相続人であっても「推定相続人の廃除」はできません。兄弟姉妹については、財産を譲渡したくない場合において、「推定相続人の廃除」をしなくても、遺言書を作成することにより相続分を奪うことができます。
(2)法的効果が多大なため、些細な理由では認められません。廃除が認められるためには、次のいずれかの事由に該当する必要があります。①被相続人に虐待をしたこと。②被相続人に重大な侮辱を与えたこと。③推定相続人にその他の著しい非行があったこと。それ以外に、①被相続者の殺害等、②殺害の不告発者等、③詐欺・強迫による被相続者の遺言等の妨害者、④被相続人の遺言等についての詐欺・強迫者、⑤被相続人の遺言書の偽造者等は欠格事由に当たり、相続欠格の効果が当然に生じることとなります。
(3)廃除の効果は代襲相続には影響しません。被廃除者の子の相続権については、廃除の効果は被廃除者の子には影響しないため、被廃除者に子がいれば、相続の時はその被相続人の孫か被廃除者の相続分を代襲相続します。
(4)一度廃除された相続人であっても、「推定相続人の廃除の取消し」によって相続権は回復します。被相続人は、生前でも遺言によってでも廃除の取消請求をいつでもすることができますが、権利関係を明確にするためにも家庭裁判所の関与を必要とします。そして、遺言による廃除に関する規定は、廃除の取消しに準用されます。
(5)兄弟姉妹が推定相続人であっても「推定相続人の廃除」はできません。兄弟姉妹については、財産を譲渡したくない場合において、「推定相続人の廃除」をしなくても、遺言書を作成することにより相続分を奪うことができます。
推定相続人の廃除

内容
「推定相続人の廃除」とは、被相続人の意思によって推定相続人の相続権を奪う制度であり、推定相続人に一定の事由があるときには、その廃除を家庭裁判所に請求することができます。なお、遺贈によってもある程度同様の法的効果が生まれますが、遺留分の権利までは奪えないので、遺留分の権利まで奪いたい場合にこの制度が有効となってきます。
要件
「推定相続人の廃除」が認められるためには、被廃除者が遺留分を有する推定相続人であることと、次のいずれかの廃除事由に該当することか必要となります。
①被相続人に虐待をしたこと
例えば、夫が妻に対して傷害を負わせたり、脅迫する行為などは、虐待に当たる可能性があります。
②被相続人に重大な侮辱を与えたこと
例えば、夫が職にも就かず、飲酒し暴言を吐くなどする場合は、重大な侮辱」に当たる可能性があります。
③推定相続人にその他の著しい非行があったこと
例えば、被相続人の所有不動産を無断で処分することにより公正証書原本不実記載の有罪判決が確定しているような場合や、浪費などにより多大な迷惑をかけるような場合は、著しい非行に当たる可能性があります。
①被相続人に虐待をしたこと
例えば、夫が妻に対して傷害を負わせたり、脅迫する行為などは、虐待に当たる可能性があります。
②被相続人に重大な侮辱を与えたこと
例えば、夫が職にも就かず、飲酒し暴言を吐くなどする場合は、重大な侮辱」に当たる可能性があります。
③推定相続人にその他の著しい非行があったこと
例えば、被相続人の所有不動産を無断で処分することにより公正証書原本不実記載の有罪判決が確定しているような場合や、浪費などにより多大な迷惑をかけるような場合は、著しい非行に当たる可能性があります。
排除の効果
推定相続人の廃除が認められた場合には、推定相続人は全ての相続権を失い、何も相続できないこととなります。ただし、推定相続人の廃除の取消しが行われた場合、相続権は回復し相続人の地位が復活します。また、被廃除者が廃除された後に被相続人の養子になった場合も、通説では、被相続人には被廃除者に相続させる意思があり、被廃除者は新たな身分を取得したとみられるので相続権を取得するとされています。
推定相続人の廃除の手続

手続
○生前廃除の申立て
被相続人による家庭裁判所への請求により、調停又は審判が行われます。そして、調停又は審判で認められると推定相続人は直ちに相続権を失います。また、推定相続人の廃除が認められた場合、その者の戸籍の身分事項欄に廃除された旨の記載がなされます。
○遺言による廃除申立て
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をした時は、遺言執行者は、その相続開始後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をしなければなりません。遺言書により廃除を行う場合は、遺言執行者を指定しておく必要があります。そして、廃除は被相続人の死亡時に遡ってその効力が生じます。
被相続人による家庭裁判所への請求により、調停又は審判が行われます。そして、調停又は審判で認められると推定相続人は直ちに相続権を失います。また、推定相続人の廃除が認められた場合、その者の戸籍の身分事項欄に廃除された旨の記載がなされます。
○遺言による廃除申立て
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をした時は、遺言執行者は、その相続開始後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をしなければなりません。遺言書により廃除を行う場合は、遺言執行者を指定しておく必要があります。そして、廃除は被相続人の死亡時に遡ってその効力が生じます。
廃除請求者について
廃除請求権者には、意思能力と行為能力の両方が必要であるかについては争いがあるところですが、多数説は意思能力をもって足りるとしています。
まとめ

今回の事例では、乙は遺留分を有する推定相続人に該当します。また、甲は乙らの暴力によりたびたび病院に通うようなケガを負わされており、これは民法892条の虐待に該当すると考えられます。
よって、甲は家庭裁判所に「推定相続人の廃除」を請求し、排除の審判を受けることで、乙は全ての相続権を失い、甲の財産が乙に流出することは一切ありません。また、乙以外の者に対する遺贈によっても、ある程度同様の結果となりますが、乙は遺留分の権利を失わないので、乙に対する一切の財産の流出を食い止めることができません。なお、乙が廃除によって相続人の地位を失った場合でも、廃除の効果は被廃除者の子には影響しないため、丁が甲の財産を代襲相続することになります。よって、乙の廃除後の相続関係は、丙と丁を相続人とすることになり、それぞれ甲の財産の2分の1ずつが法定相続分となります。
今回は、相続発生前の対策として推定相続人の廃除について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
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よって、甲は家庭裁判所に「推定相続人の廃除」を請求し、排除の審判を受けることで、乙は全ての相続権を失い、甲の財産が乙に流出することは一切ありません。また、乙以外の者に対する遺贈によっても、ある程度同様の結果となりますが、乙は遺留分の権利を失わないので、乙に対する一切の財産の流出を食い止めることができません。なお、乙が廃除によって相続人の地位を失った場合でも、廃除の効果は被廃除者の子には影響しないため、丁が甲の財産を代襲相続することになります。よって、乙の廃除後の相続関係は、丙と丁を相続人とすることになり、それぞれ甲の財産の2分の1ずつが法定相続分となります。
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