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外国籍の相続人がいる場合の遺産分割手続はどうするの?

婚姻などにより日本国籍を離脱し外国籍となっている相続人がいる場合、遺産分割手続きはどうすればよいか。また、相続手続を進めるうえで、外国籍の相続人であることの公的証明はどのような方法で行えばよいのでしょうか。今回は、相続人が外国籍の場合の遺産分割手続について解説します。

外国籍の相続人がいる場合の遺産分割手続

 相続が開始された場合において、①被相続人が外国で死亡した場合、②当事者(被相続人、相続人等)が外国籍の場合、③遺産が外国にある場合、④外国の方式により遺言が作成されていた場合のように、複数の国が関係する相続案件を渉外相続といいます。
 渉外相続では、どの国の裁判所が管轄を有するのか、どの国の法律が適用されるかを決定しなければなりません。
 今回は、②の当事者が外国籍の場合について解説します。
 法の適用に関する通則法36条は、「相続は、被相続人の本国法による。」と定めています。したがって、被相続人が日本国籍を有する場合、日本の民法に基づく遺産分割手続を進めることになります。
 なお、同法37条は、「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。」と定めており、日本国籍を有する被相続人が遺言を作成する場合も、遺言の成立及び効果は、日本の民法によることになり、相続も、当該遺言の内容に従って行うことになります。遺言が作成されていない場合、原則どおり遺産分割手続を進めることになりますが、遺産分割は、相続人全員が参加する必要があり、1人でも欠けた場合、遺産分割の合意をしても無効となります。
 民法では、相続人に国籍要件が定められていないため、婚姻等により日本国籍を離脱し、外国籍となっている相続人も、遺産分割手続に参加する必要があり、参加しない状態で手続を進めることはできません。
 相続人が外国籍となる場合は、婚姻・帰化等で自己の志望により外国籍を取得し、国籍を喪失した場合、日本国籍を離脱した場合、被相続人の配偶者がもともと外国籍で、被相続人と外国籍の配偶者との間の子が、外国籍を選択した場合等があります。
 なお、遺産分割の手続を進めるにあたり、法定相続情報証明制度を利用することもありますが、当該制度を利用するためには、相続人に関して、現在、生存していることを示す日本の戸籍が必要となります。外国籍の相続人の場合は、当該戸籍がありませんので、当該制度は利用できないことになります。

外国籍の相続人の所在を確認する方法及び所在不明の場合の対応

 最初に、連絡可能な全ての親戚・知人に連絡し、相続人の所在確認を行います。
 その結果、住所、電話番号、電子メールアドレス等の連絡先が判明した場合には、手紙の発送、電話・電子メールでの連絡により接触を図り、その相続人も含めて遺産分割協議を行います。
 結果として、具体的な所在・連絡先は不明だったものの、どの国で生活しているか判明した場合で、その国に日本人会や県人会が組織されているときは、これらの組織に問い合わせることが考えられます。
 なお、県人会の場合は、各県庁の国際課等に問い合わせることが考えられます。
 親戚・知人に対する調査をしても、どの外国の国籍になっているか分からない場合もあります。
 そのような場合には、国籍喪失届の閲覧を試みることも考えられます。婚姻や帰化等によって外国籍を取得し、国籍を喪失する場合がありますが、その場合には、国籍喪失の届出を住所地の市区町村に提出する必要があります。
 国籍喪失の届出書には、新たに取得した国籍や、届出当時の住所を記載することになっており、手掛かりになります。国籍喪失の届出書は、市区町村への届出後1か月経過すると当該市区町村を管轄する法務局に送られますので、国籍の喪失から相当期間の経過が見込まれる場合は、戸籍及びその附票からたどることができる最後の住所地を管轄する法務局に対し、利害関係があり、閲覧する特別の事由(所在が不明であり連絡が取れない等)がある旨を伝えて、閲覧を試みることが考えられます。
 なお、日本国籍を有する相続人が外国におり、連絡が取れない場合には、外務省に所在調査を依頼することができます。これは、依頼人が被調査人の三親等内の親族であれば、直接調査を申し込むことができ、そうでない場合は、弁護士に依頼します。もっとも、外務省による所在調査は、日本国籍を有している場合に限られますので、相続人が日本国籍を離脱している場合には利用できません。
 これらの調査を行っても、具体的な所在・連絡先が不明である場合には、家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任の申立てをすることも考えられます。
 不在者(従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者)が、その財産を管理する者を置かなかった場合、家庭裁判所は、相続人等の利害関係または検察官の申立てにより、不在者財産管理人の選任等の処分を行うことができます。
 そこで、この申立てを行い、不在者財産管理人の選任を受け、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加したうえで、被相続人の遺産分割手続を進めることになります。

相続人であることの証明方法

 外国籍の相続人を含めた相続人間で、遺産分割について協議が成立し、遺産分割協議書の内容も固まり、その相続人が署名等した場合でも、相続登記等その後の相続手続を進めるためには、その相続人が本当に被相続人の相続人であり、本人が署名していることを証明できなければなりません。
 日本国籍の相続人の場合は、①相続人であることについては、遺産分割協議書に戸籍謄本を添付することにより、また、②本人が署名・押印していることについては、遺産分割協議書への実印による押印及び印鑑証明書を添付することにより証明します。
 外国籍の相続人の場合は、①について、日本国籍を離脱するまでの戸籍謄本により、被相続人の相続人であることの証明をすることができます。
 ②について、外国籍であっても日本に住民登録をしている場合には、印鑑を登録し、印鑑登録証明書を取得し、添付します。しかしながら、日本に住民登録がない場合には、この方法は利用できません。
 外国では実印や印鑑証明の制度は珍しく、存在しないことが通常です。
 元日本人の場合は、外国に存在する日本の大使館において、日本での印鑑証明に代わるものとして、本人の署名であることに間違いないことの証明をしてもらうことが考えられます。
 この証明方法は、原則として日本国籍を有する者が利用できますが、元日本人が利用できることもあります。
 外務省のウェブサイトでは、署名証明の発給条件について、「日本国籍を有する方のみ申請できます。」としつつ、「元日本人の方に対しましては、失効した日本国旅券や戸籍謄本(または戸籍抄本)(もしくは除籍謄本(または除籍抄本))をお持ち頂ければ遺産相続手続きや本邦にて所有する財産整理に係る手続きに際し、署名証明を発給できるケースもありますので、発給条件、必要書類等は証明を受けようとする在外公館に直接お問い合わせください。」と記載されています。

まとめ

 日本国籍の被相続人の相続人を調査したところ、婚姻により日本国籍を離脱し外国籍となっている相続人がいるケースがあります。
 被相続人が日本国籍を有する場合、民法に基づく遺産分割手続を進めることになりますが、このケースのように外国籍の相続人がいる場合には、その相続人も遺産分割手続に参加する必要があります。
 また、調査しても外国籍の相続人の所在が不明の場合、家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任の申立てをすることができます。
 外国籍の相続人を含めた遺産分割協議が相続人間でまとまり、遺産分割協議書へ署名する際に、外国籍の相続人は、日本国籍を離脱するまでの戸籍謄本や署名証明などにより、被相続人の相続人であることの証明をすることができます。
 このように、亡くなった方が日本国籍であれば、日本の相続法が適用され、外国籍の相続人にも日本人と同様に相続権があり、遺産分割をすることもできます。
 ただし、外国籍の方の場合、登記手続に必要な住民票・印鑑証明書・戸籍が無い場合があるため、通常よりも手間のかかる手続になります。遺産分割協議をスムーズに行うためにも専門家である司法書士に依頼されることをお勧めします。当事務所は、相続や遺言に多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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