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遺言執行者がある場合の相続人の行為の効果について法改正されました。

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができないとされ、判例は相続人がこれに違反する行為をした場合を絶対的無効としていました。法改正により、遺言の有無や内容を知り得ない第三者の取引の安全を考慮して、無効を維持しつつも善意の第三者に対抗することができないという規定が置かれました。

遺言執行者」とは

 遺言執行者とは、遺言執行を行う者のことであり、多くの場合は遺言者が遺言書において指定します。「未成年者及び破産者」以外なら誰でも遺言執行者になることができ、相続人のうちの一人や信託銀行等の法人も指定することができます。遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するという強い権限を持っています。

改正の理由

 遺贈による不動産の権利取得を第三者に対抗するためには、登記が必要とされます。いままでの判例では、遺言執行者が選任されている場合、受遺者は遺贈による権利取得を登記なくして第三者に対抗することができていました。この判例により、遺言執行者がいる場合には登記をしなくても、いつまででも受遺者は権利の取得を対抗できるが、遺言執行者がいなければ登記をしていなければ、対抗できないという正反対の結論が導かれることになります。
 遺言や遺言執行者の有無については、これを公示する制度がないため、相続開始後に取引関係に入った第三者が、遺言の有無や遺言執行者の選任の有無を調査することは、一般に極めて困難です。
 そうすると、絶対的無効を貫くことにより、遺言執行者の存在を知らない第三者に不測の損害を与え、取引の安全を害するおそれがあります。そこで、改正法では、遺言者の意思の実現より、取引の安全に重きを置き、第三者が遺言執行者の存在を知らなかった場合は、その行為が無効であることを対抗することができないとしました。
 今回の改正では、民法899条の2第1項により、相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないものとされましたので、遺言執行者の有無にかかわらず、受益相続人等が権利の取得を第三者に対抗するには、対抗要件を具備していることが必要であるとされました。
 また、第三者についても、民法1013条2項ただし書により、保護されるための要件としては、善意であることに加えて対抗要件を具備している必要があります。これは、被相続人から遺言によって、不動産を取得した相続人や受遺者と第三者は、二重譲渡と同様の対抗関係に立つと考えられるからです。

改正された「民法899条の2」について

 改正民法899条の2第1項では、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」と規定されています。
 この規定から、法定相続分を超えて財産を相続した場合は、法定相続分を超える部分については、第三者より先に登記しないと第三者に権利を主張できません。
 遺言書が残されている場合は、相続人同士で遺産分割の話し合いをする必要もなくなるため、急いで名義変更をはじめとする相続手続きをされない方もいますが、今後は早急に手続きをしないと相続財産を失う可能性があります。
 同様に、改正民法899条の2第2項の規定により、遺産として不動産を相続した場合に限られず、銀行預金などの債権を相続した場合にも適用されます。
 たとえば、法定相続分以上の預金を相続した場合は、銀行に対して、その旨を内容証明郵便など確定日付のある証書で、通知をしなければ第三者に対して権利を主張できなくなってしまいます。

改正民法899条の2 第2項
「前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて、当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。」

善意の内容

 第三者の善意の内容については、遺言執行者がおり、その財産の管理処分権が遺言執行者にあることを知らないことを意味することになるものと考えられます。この善意者保護規定によって治癒されるのは、相続人の無権限であるから、というのがその理由です。なお、取引の相手方が遺言執行者がいることを知っていたが、相続人に処分権限があると思っていた場合、いわゆる法律の錯誤の問題となりますが、通常は善意性が否定され、保護されないことになるものと考えられます。

改正法の施行日

 改正法は、令和1年7月1日以後に開始した相続に適用されます。そのため、令和1年7月1日より前に作成された遺言であっても、令和1年7月1日以後に相続が発生すれば改正法が適用されます。
 なお、預金などの債権を相続した場合は、令和1年7月1日前に開始した相続であっても、遺産分割による債権の相続がされた場合で、銀行に対して通知をしたのが令和1年7月1日以後であれば、改正法の適用が受けられるという特例があります。

まとめ

 改正前は、遺言で遺言執行者が選任されていれば、仮に相続人が遺言の内容を無視して処分行為を行ったとしても、その効果は絶対的無効とされていました。特定財産承認遺言で指定された受益相続人以外の相続人が法定相続分で登記を入れ、自己の持分を第三者に売却したとしても、その行為は無効であり受益相続人が権利を失うことはありませんでした。
 しかり、法定相続分を超える権利の取得については、対抗要件主義によって処理されることになりますので、より一層スピーディーな登記等の対抗要件を具備することが求められます。
 なお、相続人同士の権利関係においては、改正法は無関係であり、相続人間では、登記が無くても権利の取得を主張できます。このことは、そもそも改正に関係はなく、改正前から同様に理解されていました。
 改正法により、遺言者の意思の実現より、取引の安全に重きを置くようになり、第三者が相続財産を取得することを防ぐためにも、相続開始後になるべく早く相続手続き行い、不動産の名義変更をすることです。
 相続手続きを確実かつ迅速に行うのであれば、専門家である司法書士に相談することをお勧めします。当事務所は、相続や遺言に多くの実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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