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複数の遺言が存在する場合に遺言の優劣はどうなるの?

被相続人作成の複数の遺言が見つかった場合、遺言の優劣関係はどのようになるのでしょうか。またどのような点に注意して取り扱うべきでしょうか。今回は、複数の遺言について解説します。

後遺言優先の原則

 遺言は、遺言者の最終意思を尊重するものであるため、作成日付の異なる遺言が複数存在する場合には、後の日付の遺言が優先されることになります。これを後遺言優先の原則といいます。
 法律上、遺言の種類によって優劣関係が決まることはありませんので、たとえば、前の遺言が公正証書遺言であり、後の遺言が自筆証書遺言である場合であっても、後の遺言が優先することになります。
 もっとも後遺言優先の原則は、いかなる場合にも、前の遺言の効力が失効することを意味するわけではありません。すなわち、前の遺言と後の遺言が、相互に全く無関係の内容について定めている場合や、それぞれ両立する内容を定めている場合には、両遺言は、いずれも当然に有効であって、優劣関係はありません。
 これに対して、前の遺言と後の遺言の内容が抵触するときは、その抵触する部分について、後の遺言で、前の遺言を取り消したものとみなされます。
 複数の遺言の抵触とは、前の遺言を失効させなけれは、後の遺言の内容を実現することができない程度に内容が矛盾していることをいいます。しかしながら、必ずしも、後の遺言が客観的に実現不可能である場合のみを指すのではなく、遺言者の最終意思を解釈する必要があります。判例も、遺言と生前行為との抵触が問題となった事案において、「単に、後の生前処分を実現しようとするときには、前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である」と判示しています。
 たとえは、前の遺言で甲が未成年後見監督人に指定されており、後の遺言で乙が未成年後見監督人に指定された場合、法律上は、甲・乙両名が未成年後見監督人になることが可能ですが、遺言者の意思が、未成年後見監督人を1名だけ指定する意思であったと認められる場合には、前遺言は、全部抵触で失効することとなります。
なお、仮に、同一日付の遺言が複数見つかった場合には、事実として後に作成された遺言が優先されると解されます。

遺言の撤回

 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。
 したがって、複数の遺言が見つかった場合、後の遺言が、前の遺言を撤回するものであれば、前の遺言は失効することになります。また、遺言者は遺言の一部を撤回することもできるので、  遺言者が一部を撤回した場合には、撤回されなかった部分は効力を生ずることになります。
 ただし、遺言の撤回は、遺言の方式に従わなければなりません。後の遺言が、遺言の方式を満たさず、当該遺言が無効である場合、撤回の効力が生じず、前の遺言が優先することになります。
 なお、民法1022条から1024条までに基づき撤回された遺言は、その撤回の行為がさらに撤回され、取り消され、あるいは効力を失っても、その撤回が錯誤、詐欺または強迫によるものであった場合を除き、復活しません。
 ただし、第1遺言を第2遺言により撤回し、さらに第3遺言をもって第2遺言を撤回した場合、遺言者の意思が第1遺言の復活を希望することが明らかなときは、民法1025条ただし書の注意に鑑み、遺言者の真意を尊重して、第1遺言が有効とされます。

遺言が無効となる場合

後の遺言がある場合であっても、後の遺言が無効な遺言があれば、前の遺言が効力を有することになります。遺言が無効となるのは、遺言が形式的要件を満たさない場合遺言者が遺言能力を欠いていた場合が考えられます。

遺言が形式的要件を満たさない場合

 実務上、公正証書遺言であれば、法定の要件を満たした内容になっていると思われますが、自筆証書遺言である場合には、法定の要件を満たしていない遺言が紛れていることは、珍しくありません。したがって、各遺言の有効性に注意する必要があります。
 自筆証書遺言の場合、遺言者は、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません。
したがって、日付等の記載事項に漏れがある遺言や、押印を欠いている遺言、全文が自筆で書かれていない遺言(たとえば、パソコンで作成されている遺言)は無効となります。
 ただし、例外的に、平成31年1月13日以降は、自筆証書遺言に一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しないこととなりましたので、パソコンで目録を作成したり、通帳のコピーを添付したりすることができます。この場合でも、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければなりません。
 なお、日付については、年・月のみならず、日の記載まで必要と解されており、たとえば「令和〇年〇月吉日」というような、日付の特定ができない記載にとどまる場合にも、当該遺言は無効となります。

遺言者が遺言能力を欠いていた場合

遺言者は、遺言をするときにおいて、その能力を有しなければなりません。遺言者が、遺言をするときに15歳未満である場合、または、遺言能力を有していなかった場合、当該遺言は無効となります。

まとめ

 民法では、遺言の書き方や遺言執行者、遺留分などの規定があるだけで、遺言は1通しか書いてはいけないといったような規定はどこにもありません。そのため、気が変われば何回も遺言を書くことができます。そのこことから、複数遺言が見つかることも十分ありえます。
 遺言は、遺言者の最終意思を尊重するものから、作成日付の異なる遺言が複数存在する場合には、後の日付の遺言が優先されることになります。
 なお、遺言は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。
 また、後の遺言が無効な遺言があれば、前の遺言が効力を有することになります。遺言が無効となるのは、遺言が形式的要件を満たさない場合遺言者が遺言能力を欠いていた場合が考えられますので、無効とならないように注意が必要となります。
 そのためにも、相続手続きや遺言書作成について、専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続放棄や限定承認を含む相続や遺言など多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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