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被相続人が利用していた電子データの管理や承継はどうしたらよいのでしょうか?

被相続人が利用していた電子データについて、クラウドに置いているものと自宅のパソコンやハードディスクに入っているものがありますが、相続人はそれぞれどのように管理や承継したらよいでしょうか。今回は、被相続人が利用していた電子データの管理や承継について解説します。

電子データの内容調査と保管場所の確認

電子データについて

電子データについて明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、コンピュータ内にあるか、コンピュータに取り込める形になったデータをいい、例えば、単なる印刷物上の文字データと区別して、文字コードに変換された文字データや、単なる印刷物上の画像データと区別して、ビットマップデータやJPEG方式の画像に変換された画像データなどを指します。
法律上「電磁的記録」との表現が使われることがありますが、これも電子データを 意味します。ちなみに、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」では、電子データを、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。」と定義しています。
電子データには、①電子文書と②電子化文書があります。前者は、パソコンなどのソフトウェアで作成されたテキストデータを含むコードで作成されたものであり、 れらは、容易に修正や追加をすることもできますし、内容から全文検索することもできます。後者は、紙文書などをスキャニングなどで電子画像化した文書で、テキストデータなどは含みません。相続の対象となる電子データは、一般的にはこれらの文書 (画像も含みます。)が対象になることが多いと思われます。
また、電子文書や電子化文書以外の生データなどについても、財産的な価値があれば、相続の対象となります。
昨今、Internet of Thing (IOT)や人工知能(Al)といった技術革新が進み、その結果生み出されたデータが価値を保有して利活用する動きが進んでいます。
このようなデータについては、著作物や営業秘密・ノウハウとして保護されるもの以外であっても、データ自体が価値を保有しています。ちなみに、平成30年の不正競争防止法改正により、財産的価値のあるデータのうち、一定の要件を満たしたデータを限定提供データとして保護し、このデータを不正に取得・使用等することの差止めを請求することができるようになりました。
限定提供データとは、①業として特定の者に提供する情報として、②電磁的方法により相当量蓄積され、③管理されている技術上又は営業上の情報と定義されています。
限定提供データは、知的財産権の1つとして財産的価値があり、相続の対象となる電子データです。
なお、上記定義のうち「業として」とは、反復継続的にデータを提供していることを指しますが、実際に提供していない場合であっても反復継続的に提供する意思が認められればよいとされています。また、特定の者とは一定の条件の下でデータ提供を受ける者をいい、電磁的管理性とは、パスワードなどで、管理されている場合等を 指します。
限定提供データか否かについては、改正法が施行されたばかりで前例もないため、判断は難しいですが、相続の対象になるかどうかの観点からすれば、電子データが第三者にライセンスされ、ライセンス料等が発生している場合などは、これに該当する可能性が高いといえます。

電子データの調査・確認

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することが原則です。パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器は、家具や家電と同じように家庭用財産とみなされ、これらに保存されている写真やメール文などの電子データについても、写真や、実体のある手紙などと同じで、相続財産として認められるので、相続が開始されれば、これらの電子データに関する一切の権限は、相続人に承継されます。そして、電子データ関連契約についても、当該契約に基づく、電子データに関する権限は、相続人が承継します。
ただし、契約者本人とだけ有効な一身専属性のある契約上の地位は相続できません。この点クラウド上に置いてある電子データについては、契約条項や規約等で、一身専属性の有無について、別途検討することが必要です。これらの電子データの調査方法としては、まず被相続人のパソコンやスマートフォンなどを確認し、またUSBメモリー等外付けの記録媒体等を調査します。またクラウド上に保管されている場合もあるので、クラウドサービスのアカウント等の有無を確認したり、月々の請求書や預貯金口座の取引履歴等から、クラウドサービスの利用料などがないか等を調査したりします。

電子データの保存手続

電子データがクラウドに置いてある場合は、クラウドサービス提供会社との間の電子データの取扱いを確認し、サービスを受けていた契約者が亡くなった旨を連絡した上で、相続人が確定するまで電子データを保存してもらうよう依頼し、必要な費用を払うこと等が考えられます。
また、自宅のパソコンやハードディスクに入っている電子データについては、バックアップをとり、外付けの記録媒体でも保存することが考えられます。

契約相手方への相続開始の連絡

仮に相続の対象となる電子データについて、第三者との間で、ライセンス契約等を締結し、データ利用権を付与していた場合、当該ライセンス契約を維持管理していくためには、相続が発生した事実を、使用権者に通知しておくことが必要です。

クラウドストレージサービスの規約等に基づく承継手続

電子データを調査、確認した上で、相続財産として承継できるものと、できないものに分けてリスト化し、整理することが必要となります。そして、承継できるもののうち、電子データをクラウドに置いている場合は、クラウドストレージサービスの規約等に基づく承継手続を行います。
クラウドで電子データ等を保管するいわゆるクラウドストレージサービスに関する契約若しくは規約は、法律的には準委任契約に該当することが多いです。
準委任契約とは、法律行為以外の事務を委託する契約をいい、委任契約と同様、民法上は委任者が死亡した場合、当該契約は終了します。したがって、契約・規約上特段の記載がない限りは、クラウドストレージサービスに関する契約上の地位を相続人が承継することはできないことになります。
なお、契約が終了するとしても、当該契約によって既に発生した権利義務、例えば、準委任契約が有償の場合の未払利用料支払債務は、相続人に承継されることになります。
ちなみに、クラウドサービス提供者によっては、利用規約の中で、サービス利用者が死亡した場合、ID、アカウント及びアカウント内にある一切のコンテンツが消滅すると規定しているものもあります。
例えばApple社のicloudでは、「別途法令に定めがある場合を除き、お客様は、お客様のアカウントが譲渡不能なものであることおよびお客様が死亡した場合にはお客様のApple IDまたはお客様のアカウント内にあるコンテンツについて一切の権利が消減することに同意します。死亡証明書またはそれに準ずる証明書の書面を受け渡した時点をもって、お客様のアカウントを終了し、お客様のアカウント内にあるすべてのコ ンテンツを削除することができるもの」と記載されています。 また、「会員が死亡した場合、本契約は終了または承継されるものとし、相続人はそれを選択することができるものとし、会員の地位の承継を希望するときには、正当な相続人であることを証明する書類を添えて、速やかに当社所定の手続に従い届け出るもの」とする他のクラウドサービス提供会社もあります。
いずれにしてもクラウド上に置いてある電子データの承継については、サービス提供会社の利用規約を確認し、その手続に従って承継若しくは所定の手続を行う必要があります。

契約者の変更手続

電子データを相続人が承継した場合、当該電子データが第三者にライセンスされている場合は、ライセンス契約上に特段の規定がない限り、契約上の使用許諾権者としての権利義務も、相続人が承継すると考えられます。
したがって、その場合は改めて契約を締結する必要はありませんが、相続人と使用権者との間で、協議の上、改めて契約当事者を変更する等して新規に契約を締結し直すこともあります。

まとめ

被相続人が利用していた電子データの管理や承継は、次の点を注意します。
(1)被相続人が利用していた電子データを調査し、その種類や保管場所を確認する。
(2)電子データが失効しないように保存する手続を行う。
(3)承継するデータに関して、第三者との間でライセンス契約等がある場合は、契約相手方に相続が開始したことを連絡する。
(4)電子データをリスト化し、承継できるものとできないものを整理した上で、承継できるもののうち、電子データをクラウドに置いている場合は、クラウドサービスの規約等に基づき承継手続を行う。
(5)承継するデータに関して第三者との間で、ライセンス契約等がある場合は、契約者の変更手続を行う。
今回は、被相続人が利用していた電子データの管理や承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続に関する相談や手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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