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被相続人が、遺留分侵害額請求権を行使しないまま亡くなった場合はどうなるでしょうか?

被相続人が、遺留分侵害額請求権を行使しないまま亡くなった場合はどうなるでしょうか。今回は、相続財産の中に遺留分侵害額請求権がある場合の注意すべき点について解説します。

遺留分侵害額請求権

遺留分侵害額請求権とは、遺留分権利者及びその承継人が、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる権利です。
遺留分侵害額請求権は形成権と解されており、受遺者又は受贈者に対する具体的な金銭請求権は、遺留分侵害額の請求権を行使して初めて発生することとなります。なお、被相続人が令和元年6月30日以前に死亡した場合には、改正前の民法における遺留分減殺請求権の行使の可否が問題となります。
裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、遺留分侵害額請求権の行使により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができます。これは、受遺者乂は受贈者が直ちに遺留分侵害相当額の金銭を支払うことができない場合を想定した規定です。

遺留分侵害額請求権の相続財産性

遺留分侵害額請求権は、財産的価値を有し、当然に相続の対象となります。したがって、遺言があればその記載に従い、遺言がない場合には、金銭債権として、法定相続分に基づいて各相続人に当然分割されるものと解されます。
しかしながら、遺留分権者であった被相続人が遺留分侵害額請求権を行使しないまま亡くなった場合には、遺留分権自体は相続の対象となるものの、遺留分侵害額請求権については、行使上の一身専属性を有し、被相続人である遺留分権者が、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、相続人等の承継者が遺留分侵害額請求権の行使をすることはできないと考えられます。

遺言の有無等の調査

遺留分権利者であった被相続人が死亡前に遺留分侵害額請求権を行使している場合には、当該権利行使をしている書面がないか等を調査する必要があります。また、被相続人の遺留分侵害額請求権を行使するためには、少なくとも、被相続人が遺留分侵害額請求権の権利行使の確定的意思を有することを外部に表明していることが必要となります。前提として、被相続人の遺留分が侵害されているのか否かを確認するためには、被相続人が相続人となる相続の被相続人の遺言の有無の調査をしなければなりません。遺言の内容が、特定の者に全部又は大半の遺産を相続させる内容である場合には、被相続人を含む他の相続人の遺留分を侵害している可能性が高いといえます。
この点、公正証書遺言が残されている可能性がある場合には、公証役場に問い合わせることにより、公正証書遺言の存否や作成公証人等が分かります。もっとも、公証役場への問合せは、相続人又はその代理人、遺言執行者しかできませんので留意が必要です。
また、自筆証書遺言が残されている可能性がある場合、自筆証書遺言は公証役場が保管するものではありませんので、自宅を探したり被相続人と取引のある銀行・信託銀行等に問合せをすることが考えられます。さらに、遺言者は、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」に基づき法務省令で定める方式に従って遺言書を作成し、遺言書保管官に対し、その保管を請求することができます。この請求があった場合には、遺言書の保管は、遺言書保管官が遺言書保管所(法務局)の施設内で行います。そして、当該遺言書の保管を申請した遺言者の相続人等一定の者は、法務局に保管されている遺言書について、遺言書情報証明書と遺言書保管事実証明書の交付を請求することができます。なお、遺言者が生存中は、上記相続人等は遺言書情報証明書等の交付請求をすることはできません。したがって、相続人としては、被相続人が相続人となる相続の被相続人が遺言書保管法に基づく遺言書の保管申請をしている可能性があると思われる場合は、自筆証書遺言の遺言書保管事実証明書の請求をすることも検討するべきです。その上で、被相続人の遺留分が侵害されていることが判明した場合には、遺留分侵害額請求権の権利行使の確定的意思を有することを外部に表明していたといえるような書面等がないかなどを調査する必要があると思われます。

遺留分侵害額請求権の主張方法

遺留分侵害額請求権は形成権と解されており、その行使は受遺者又は受贈者に対する一方的な意思表示によって行います。したがって、その行使は、裁判上の請求でも、抗弁の形式でも、裁判外の意思表示による行使でもよいこととなります。なお、下記のとおり、遺留分侵害額請求権は、相続開始によって相続分の割合に応じて当然に分割され、各相続人に承継されると解されるので、各相続人が個別に行使をすることとなります。
もっとも、遺留分侵害額請求権の消滅時効や除斥期間を考えると、いつ遺留分侵害額請求権を行使したのかを明確にしておく必要があります。そこで、裁判外で遺留分侵害額請求の意思表示を行う場合には、立証の観点から、配達証明書付き内容証明で行うべきです。
また、遺産分割協議の申入れや遺産分割調停の申立て等を行っている場合、そのような申入れ等をもって遺留分侵害額請求の意思表示とみることができるのかが問題となりますが、民法改正前の事案において、最高裁決は、遺産分割と遺留分減殺請求権とは、その要件・効果を異にするので、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺請求の意思表示が含まれているとはいえない旨判示しているので注意が必要です。

遺留分侵害額請求権の評価方法

遺留分侵害額請求権の評価は、遺留分侵害額の計算により行います。また、遺留分権が具体的に発生し、その範囲が定まるのは相続開始時のため、評価の基準時は相続開始時(被相続人の死亡時)考えられます。

遺留分侵害額請求権の承継方法

遺留分権利者であった被相続人が遺留分侵害額請求権を行使している場合には、遺留分侵害額請求権は、相続開始によって相続分の割合に応じて当然に分割され、各相続人に承継されます。
なお、相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り認められていますが、相続開始後の遺留分の放棄は、既に自己に帰属した権利の処分であり、自由にできると考えられています。よって、相続分の割合に応じて遺留分侵害額請求権を当然に分割して承継した各相続人も、遺留分、遺留分侵害額請求権の放棄ができると考えられます。

まとめ

相続財産の中に遺留分侵害額請求権がある場合の次の点を注意します
(1)遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額請求権を行使することにより、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できる。
(2)遺留分権利者が遺留分侵害額請求権行使の確定的意思を有することを外部に表明していた場合には、その相続人も承継人として遺留分侵害額請求権を行使することができる。
(3)相続人の遺留分が侵害されているかを調査する上で、被相続人の遺言の存否、内容を把握することが重要である。
(4)遺留分侵害額請求権の意思表示をする場合には、権利の行使時期等を明確にするために、配達証明付き内容証明で行うべきである。
(5)遺留分侵害額請求権には消滅時効及び除斥期間が定められている。
(6)遺留分侵害額請求権の評価は、取引価格などの客観的基準に従って行われる。
(7)遺留分侵害額請求権は、相続開始によって相続分の割合に応じて当然に分割され、各相続人に承継される。
今回は、遺留分侵害額請求権の管理・承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続に関する相談や手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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