BLOG ブログ

相続財産に山林や保安林がある場合の管理や承継がどうするのか?

相続財産に山林・相続財産に山林・保安林がある場合、管理・承継にあたってどのような点に注意すべきでしょうか。相続までの管理と承継について解説します。

山林の有無の調査

山林は、宅地ほど現地に赴いて確認する機会が乏しく、境界が明確でないことも少なくありません。
被相続人がその存在を把握していても、世代が変わり、状況把握・伝達が途絶えるケースもあります。
被相続人が山林を所有していたかどうかの確認は、関係者からの聴取りに加えて、名寄帳や固定資産税評価証明書を調査することが有益です。
年1回、固定資産税納税通知書(課税証明書)が地方自治体から届きますので、この情報を基に、各地方自治体から名寄帳を取得します。
山林の地番が判明したら、不動産登記事項証明書を取得します。公図や地積測量図も取得すると、土地状況の把握の参考になります。
山林かどうか現況を把握するためには、最後は現地調査が必要となります。
そして、山林の管理承継を検討するにあたっては、森林法をはじめとする当該山林を規制する様々な法律のうち、どの法律の対象になるか確認することが必要です。
山林の中には保安林になっているものもありますが、保安林は、各都道府県が有する保安林台帳に記載されています。保安林台帳を閲覧したい場合には、保安林の地番が必要となります。このとき、登記事項証明書等が必要となる場合もありますので、各地方自治体の担当課に必要書類や手続方法を確認しておく必要があります。
また、各都道府県は、森林・林業行政推進に供するため、森林簿や森林計画図を作成しています。森林簿・森林計画図を閲覧すると、森林の所有者や所在に加えて、自然林・人工林の区別や樹木の種類がわかる可能性があります。

森林法の適用対象となる森林に該当するか否かの確認

森林法は、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的としています。
森林法の適用対象となる「森林」とは、「木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹」並びに「その土地の外、木竹の集団的な生育に供される土地」とされています。
ただし、「主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹」は除かれます。
相続財産に山林がある場合、当該不動産が森林法の対象となる森林に該当するか否かを確認する必要があります。
森林法における「森林」の場合、森林を相続する際は、事後に森林法に基づく届出をすることで足り、事前の許可は不要です。しかし、森林の公益的機能を重視し、伐採等一定の行為には許可・届出制が設けられています。

森林法における保安林の管理

保安林に関する規制

保安林とは、水源の涵養、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全・形成等、特定の公益目的を達成するため、農林水産大臣または都道府県知事によって指定される森林です。保安林の面積は、日本の森林面積の約5割、国土面積の約3割を占めています。
保安林では、それぞれの目的に沿った 森林の機能を確保するため、立木の伐採や土地の形質の変更等が規制されていますので、注意が必要です。
山林が相続財産に含まれている場合には、その山林が保安林に該当するかについて、調査する必要があります。

保安林の調査方法

保安林は登記事項として表示されますが、保安林の指定と登記事項の地目とが、必ずしも一致しているわけではないので、必ず法定台帳である保安林台帳を閲覧して確認します。
この保安林台帳は、地番ごとで管理されており、保安林の種類や伐採種、伐採の限度などが記載されています。
なお、保安林で固定資産税評価額が付されていない場合には、固定資産税が免除されることになりますので、名寄帳、評価証明書にその山林自体が掲載されていない可能性があります。
保安林台帳の閲覧の他に、保安林かどうかを確認する方法としては、所在山林の地方自治体の担当課や森林事務所へ保安林に指定されているかどうか問い合わせることも考えられます。
森林情報共有システムを用意しており、森林簿をインターネットによって閲覧できるサービスを提供している地方自治体もあります。

保安林の立木の伐採と許可

保安林の立木の伐採には、都道府県知事の許可が必要です。許可要件は伐採の方法が、指定施業要件に定める伐採の程度を超えないことです。
「指定施業要件」とは、保安林指定のときに農林水産大臣より通知される、当該保安林の指定地目を達成するため、個々の保安林の立地条件等に応じて、定められた当該保安林に係る「立木の伐採の方法及び限度並びに立木を伐採した後において当該伐採跡地について行なう必要のある植栽の方法、期間及び樹種」です。
また、伐採跡地へは指定施業要件に従って植栽をする義務が課されています。
なお、間伐及び人工林の択伐(対象となる区画から伐期に達した立木など一定の基準で樹木を選び、適量ずつ数年から数十年おきに抜き切りして林内での更新をはかること)等の場合は、知事への届け出が必要です。

土地の形質の変更

保安林の土地の形質の変更には、都道府県知事の許可が必要です。許可要件は保安林の指定目的の達成に支障を及ぼさないこととなっています。

森林法における保安林でない森林の管理

民有林の立木の伐採

「民有林」とは、国有林以外の森林で、個人有・会社有・社寺有などの私有林と町村有・県有などの公有林総称です。地域森林計画の対象となっている民有林の立木を伐採するには、原則としてあらかじめ、市町村の長に、伐採及び伐採後の造林の届出書を提出しなければなりませんので、留意が必要です。
森林が地域森林計画の対象となっているか否かを確認するには、都道府県、市町村の林務担当部署へ問合せをするか、ホームページで公開している場合は閲覧します。

野焼き

森林又は森林に接近している政令で定める範囲内にある原野、山岳、荒廃地その他の土地においては、その森林または土地の所有する市町村の長の許可を受けて、その指示するところに従ってでなければ火入れをしてはならないと定められていますので、野焼きをする際も注意が必要です。市町村長は、火入れをする目的が、造林のための地ごしらえ、開墾準備、害虫駆除、焼畑、採草地の改良に該当する場合でなければ同項の許可をしてはならないとされています。

森林法以外の山林関連法令による山林の管理

森林法以外の山林関連法令として、次のような法律が整備されており、一定の地域においては伐採制限等が設けられている可能性がありますので、併せて確認してください。
〇災害予防の観点:砂防法(砂防指定地)、地すべり等防止法(ぼた山崩壊防止区域)及び急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(急傾斜地崩壊危険区域)
〇自然保護の観点:鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(特別保護地区等)、自然環境保全法(自然環境保全地域等)
〇文化財・景観保護の観点:文化財保護法(史跡名勝天然記念物)、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(歴史的風土特別保存地区)、都市計画法(風致地区)等

山林の評価方法

純山林、中間山林、市街地山林とは

相続税の財産評価基本通達においては、山林は、その土地に想定される利用の態様に応じて、次のように分類され、それぞれ評価算定方法を定めていますので、遺産分割に当たって参考にすることが考えられます。

(1)純山林  市街地から遠く離れた場所に存し、その利用は通常の林業経営を全体としたものとなり、土地の評価に当たって宅地の影響をほとんど受けない山林のことをいいます。
(2)中間山林  純山林と市街地山林の中間に位置するような山林のことをいいます。存在する地域としては、市街地の周辺や別荘地等が想定され、市街地山林のような宅地にした方が有効利用できる前提の評価でもなければ、純山林のように本来の林業経営を前提としたものでもない位置付けとなります。
(3)市街地山林  市街地にあって評価宅地の影響を受ける山林のことをいいます。山林よりも宅地として存する方が有効利用できると考えられている地域にある山林であり、周辺の宅地の評価水準に左右されることになります。

純山林及び中間山林の評価方法

純山林及び中間山林は、山林としての固定資産税評価額に所定の評価倍率を乗じて算定します。評価単位は1筆ごとで、複数の筆に分かれていたとしても、1筆ごとに評価額を算定し、その総和を導きます。
評価倍率は、その地域にある山林の売買実例評価額、精通者意見価格等を基礎として、評価対象地を所轄する国税局長が定めており、「財産評価基準書」に掲載されている倍率を用いることになります。

市街地山林の評価方法

市街地山林は、当該山林が宅地利用されるとの前提の下に、宅地としての1㎡当たりの評価額に地積を乗じることによって評価額を算定します。倍率方式もありますが、宅地としての評価額を修正することによって算定する宅地比準方式を用いるケースが多いようです。具体的には宅地に転用するために必要とされる1㎡当たりの宅地造成費を「財産評価基準書」の「宅地造成費の金額表」から導き出し、上記評価額から控除します。
なお、ここまでにいう「地積」は実際の面積による必要がありますが、公簿面積と異なることがありますので、実測等を求められることがあります。実測しなくても公簿面積より大きいことかどうか調査する方法として、その地域の森林組合が立木の評価証明を発行している場合、森林組合が把握している面積が記載されていることがあります。

伐採制限・利用権の設定が付いている山林の評価方法

森林法その他の法令に規定に基づいてその山林の利用や立木の伐採に制限を受けている場合、その制限の影響も加味して評価しなければなりません。
相続税の財産評価基本通達においては、森林法その他の法令ごとに、一定の控除割合を定めています。
たとえば、森林法25条の保安林の指定を受けている場合は、固定資産税非課税とされています。
このような場合には、評価対象の山林の近隣の固定資産税評価額を用いることになります。
したがって、伐採制限のある山林の評価には留意が必要です。

所有権移転登記

山林、保安林を相続した場合、他の不動産と同様、相続を原因とする所有権移転登記手続きを行います

新たに森林の土地の所有者となった場合の届出義務

森林法の届出義務

森林法では、地域森林計画の対象となっている民有林(保安林含みます。)について、新たに当該森林の土地の所有者となった者に対し、市町村長への届出義務を課しています。この届出は、承継の効力要件でも対抗要件でもありませんが、新たに当該森林の所有者となった日から90日以内に届け出なければなりません。
「土地の所有者となった日」とは、売買等の契約に定められた土地の所有権の移転日、相続開始の日など森林の土地の所有権が移転することとなった日とされています。そのため、相続や遺贈によって新たに当該森林の土地の所有権を取得した者は、相続の場合は被相続人の死亡日、遺言の場合は遺言者の死亡日から90日以内の届出義務を課されます。
また、届出をしなければならない新たに森林の土地の所有者となった原因には制限がないので、相続遺贈・遺贈等、移転の事由を問わず、届出義務が課されます。
ただし、当該条文は、平成24年4月1日から施行された改正森林法で新設されたため、被相続人の死亡の日や遺言者の死亡の日が平成23年3月31日までの場合には、届出は必要ありませんが、被相続人の死亡の日や遺言者の死亡の日が平成24年4月1日以降になった場合には、届出は必要です。

届出方法

届出については、当該土地の所在する市町村の長とされています。
もっとも、その届出により、当該土地の所有権の帰属が確定されるものではありません。あくまでも森林法の目的を達成するための森林行政法上の要請に基づいています。また、承継した森林の土地の所有権について対抗要件を具備するには、当然、その旨の登記をする必要があります。
相続によって新たに森林の所有者となった者は、相続開始の日すなわち被相続人の死亡の日から90日以内に届け出なければならないことになりますが、相続人が複数いる場合、相続が開始されると、共同相続が開始し、各相続人は法定相続分に応じた持分割合に基づき、相続財産である当該森林の土地を共同で所有することになります。そして、被相続人の死亡の日から90日以内に遺産分割協議が整わない場合でも、被相続人の死亡の日から90日以内に届出が必要となります。このとき、各相続人がそれぞれの共有持分について各自単独で届出をすることも、共同して届出をすることも可能です。
ここで、例えば、森林の土地の所有者が死亡し、その相続人の1人が、単独で新たに所有者となった旨の届出を行ったとしても、他の相続人も届出をしなければなりません。共同で所有者となった者の一部の者が単独で届出を行っても、他の共有者の届け出義務が消滅することにはならないためです。
その後、遺産分割協議が整ったときには、遺産分割協議により共有持分に変更があった場合、その持分を取得した者(所有者となった者)は、遺産分割協議の成立日から90日以内にその旨の届出を行う必要があります。そうすると、森林の土地の所有者が死亡し、共同相続が開始して、死亡の日から90日を経過した後、遺産分割協議が成立して単独所有となった場合、相続開始時及び遺産分割協議の成立時すなわち被相続人の死亡の日から90日以内及び遺産分割協議の成立日から90日以内の2回届けなければならないことに注意が必要です。
なお、被相続人の死亡日から90日以内に遺産分割協議が整った場合、遺産分割協議により森林の土地の所有者となった者が、被相続人の死亡日から90日以内に届出を1回出すことで足ります。

罰則規定

新たに森林の所有者となった者が期限内にその旨の届出を行わなかったときや虚偽の届出をしたときには、10万円以下の過料が課されます。

まとめ

相続財産に山林・保安林がある場合、管理・承継にあたって注意する点について、管理にあたっては、 固定資産税の名寄帳・評価証明書、登記事項証明書・公図、保安林台帳や森林簿の調査、さらには現地調査によって、相続財産に山林が含まれているか確認します。森林法の適用対象となる「森林」は、相続したことを事後に届出すれば足りるが、一定の行為に許可や届出が必要である等の特別な規定があるため、注意が必要です。特に、保安林の場合は、伐採や土地の形質の変更には都道府県知事の許可が必要となります。森林法以外の山林関連法令も確認し、一定の地域における伐採制限等が定められていないか注意してください。なお、山林の評価は純山林・中間山林・市街地山林ごとに算定方法が異なり、山林独特の評価方法によって算定されます。
次に承継にあたっては、山林・保安林もその他の不動産と同様、遺言や遺産分割協議により、承継者が所有権移転登記手続きを行います。また、新たに一定の森林の土地の所有者となった者に対して、市町村長への届出義務が課されています。相続財産に山林・保安林がある場合の管理・承継は、専門家である司法書士や行政書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、山林・保安林の相続や森林法の手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

CONTACT
お問い合わせ

ご相談は無料です。
お気軽にお問い合わせください。