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相続財産に含まれるものと含まれないものは?

相続財産とはどういうものでしょうか。また、相続財産に含まれないものとしてどのようなものがあるのでしょうか。相続財産が否かについて争いがある場合は、どのような手続で確定させるのでしょうか。今回は相続財産の範囲について解説します。

相続の一般的効力

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属するものを除いて、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
 したがって、たとえば、被相続人の預金債権・貸金債権、動産・不動産の所有権及び債務は、相続財産となります。また、相続人が承継するのは被相続人が生前に有していた一切の権利義務であり、相続の開始によって生じる相続人固有の権利義務や相続開始後に、相続財産について生じる権利義務は相続財産に含まれません。
 なお、相続財産という用語は、通常、「相続の対象となる財産」を意味しますが、遺産分割の文脈において、遺産分割の対象となる財産という意味で用いられることがあり、必ずしも相続の対象となる財産と一致するわけではありません。

相続財産に含まれないもの

 相続の開始によって生じる相続人固有の権利義務や相続開始後に相続財産について生じる権利義務は、相続財産に含まれません。
 相続財産にならないものとしては、①生命保険金・死亡退職金、②遺族給付、③祭祀財産、④葬儀費用、⑤相続開始後の賃料・利息・配当金、⑥代償財産、⑦相続開始後の使い込み財産(使途不明金)が挙げられます。

生命保険金・死亡退職金

 保険契約者が、保険金受取人として相続人中の特定の者を指定した場合、指定された者は固有の権利として、保険金請求権を取得するので、相続財産には含まれません。
 また、保険金受取人が指定されていない場合、保険約款において生命保険金を被相続人の相続人に支払う旨の条項があるのが通常ですので、相続人が固有の権利として保険金請求権を取得することとなり、相続財産には含まれません。
 死亡退職金の受給権は、就業規則や支給約款等により受給権者が定められている場合には、遺族固有の権利と考えらえていますので、相続財産には含まれません。
 そこで、死亡退職金の相続財産性については、支給規定等があるか否かで場合分けをして検討する必要があります。なお、生命保険金、死亡退職金のいずれについても、税務上の取扱いとは異なります。

遺族給付

 遺族給付(厚生年金保険法、国家公務員等共済組合法、地方公務員等共済組合法等の社会保険関係の特別法によって親族に対してなされる給付)は、被保険者または被保険者であった者の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とするものであり、受給権者の固有の権利と解されていますので、相続財産に含まれません。

祭祀財産

祭祀財産(系譜(家系図等))、祭具(位牌や仏壇等)及び墳墓(墓石・墓碑等)を指します。)は、先祖の祭祀を主宰すべき者(祭祀主宰者)が承継しますので、相続財産に含まれません。

葬儀費用

葬儀費用は、被相続人の死亡後に発生する債務であり、相続財産には含まれません。
実質的には、遺産分割の当事者全員が合意するれば、遺産分割手続のなかで葬儀費用の処理を定めることも可能です。

代償財産

 代償財産とは、相続開始時に存在した遺産が相続開始後に滅失した結果発生した保険金請求権や損害賠償請求権、相続人によって遺産が処分された結果、発生する売却代金などを指します。
 判例は、共同相続人が全員の合意によって、遺産分割前の遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人が第三者に対し、各持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる旨を判示し、代償財産である代金債権は相続財産に含まれないと解することが従来の実務上の取扱いです。

相続開始後の使い込み財産(使途不明金)

 相続開始義に、共同相続人の1人が無断で、被相続人の預貯金を払い戻して処分した場合、当該預貯金は、分割時には存在しないため遺産分割の対象となる相続財産にはなりません。
 この場合、無断で預貯金の払戻しをされた共同相続人の一部の者が、自己の法定相続分または指定相続分を侵害されたとして、無断で預貯金を払い戻した共同相続人に対して、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解されていますが、これらも相続開始後に発生する債権であり、相続財産とはなりません。
 ただし、民法では、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができると新たに規定されました。共同相続人の1人または数人のより民法906条の2第1項の財産が処分されたときは、当該処分した共同相続人の同意を得ることは不要です。
 したがって、相続開始後に、共同相続人の1人が無断で、預貯金を払い戻して処分した場合、当該処分をした共同相続人を除く他の共同相続人の同意があれば、遺産分割時に当該処分をした財産を遺産分割の対象として含めることができます。

相続財産性はあるが遺産分割の対象にならないもの

金銭債務・連帯債務

 金銭債務は、相続の開始によって法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて承継するため、遺産分割の対象にはなりません。なお、遺産分割手続に際して、共同相続人間で債務の内部的な負担割合を決めておくことは可能です。
 また、連帯債務も、相続の開始によって法律上当然に分割され、各共同相続人は、その相続分に応じて連帯債務を承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となります。

相続開始前の使途不明金

 相続開始前に、共同相続人の1人が被相続人の預貯金を無断で払い戻した場合、相続開始後において、他の共同相続人は、払戻しをした相続人に対して、払い戻した預貯金のうち自己の法定相続分に相当する金額について、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解されています。
 ただし、無断で払い戻しをした相続人以外の全相続人が、預貯金の払戻金を遺産分割の対象とすることに合意した場合には、遺産分割の対象となります。

相続財産の範囲について争いがある場合の確定方法

 相続財産の範囲について争いがある場合としては、①財産の帰属について争いがある場合、②未分割の相続財産か否かについて争いがある、③相続財産の存否について争いがある場合があるとされています。

財産の帰属について争いがある場合

 特定の財産が被相続人の相続財産か否かの問題は、実体法上の権利の存否に関する紛争であり、民事訴訟によって確定する必要があります。
 当該財産が被相続人の相続財産に属さず、自己の財産であると主張する相続人が訴えを提起する場合には、当該財産に対する自己の所有権の確認を求める訴えを提起することとなり、当該財産が相続財産であると主張する相続人が訴えを提起する場合には、遺産確認の訴えを提起することとなります。
 もっとも、家庭裁判所が審判手続で遺産の範囲について、判断をしたうえで遺産分割を行うことも可能ですが、審判手続ですので、当該財産が遺産に含まれることについて、既判力は生じません。したがって、後日、当事者が民事訴訟を提起した結果、審判とは異なる判決がなされてしまう可能性があることを十分に理解することが肝要です。

※既判力とは、確定した判決のもつ効力です。一旦、判決が確定すれば、その後同一の事件が訴訟上問題となっても、当事者はこれに反する主張をなしえず、裁判所もそれに抵触する内容の裁判ができないという拘束力をいう。確定終局判決は、既判力が生じますが、家事審判については、基本的に既判力が認められないという考え方が一般的です。

未分割の相続財産か否かについて争いがある

 未分割の相続財産か否かについて争いがある場合として、遺言や遺産分割協議の効力に争いがある場合やこれらの解釈に争いがある場合があります。
 これらは実体法上の権利の存否に関する紛争であり、民事訴訟によって確定すべき事項ですが、審判手続において判断することも可能です。

相続財産の存否について争いがある場合

 相続開始時または遺産分割時の相続財産の存否については、民事訴訟によって確定する必要があります。たとえば、相続開始前に共同相続人の1人が無断で、被相続人の預貯金を払い戻して処分した場合、無断で預貯金の払戻しをされた共同相続人の一部の者が、無断で預貯金を払い戻した共同相続人に対して、不当利得返還請求または不法行為い基づく損害賠償請求をすることができると解されています。

まとめ

 相続人は、相続開始時から一身専属権を除き、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
 しかしながら、生命保険金や遺族給付、祭祀財産など、相続開始によって生じる固有の権利義務や、相続開始後に相続財産について生じる権利義務は、相続財産に含まれません。
 金銭債務や連帯債務など相続財産性はあるが、遺産分割の対象とならないものもあるので、注意が必要です。民法では、遺産分割前に一部の相続人が、遺産に属する財産を処分した場合であっても、他の共同相続人が同意をすれば、処分された財産が、遺産の分割時に遺産として存在するものとみなることができる制度があります。
 相続財産の範囲や帰属について、争いがある場合、民事訴訟だけでなく、審判手続において審理判断することもできますので、司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。相続や遺言などの多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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