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相続税の申告期限までに遺産分割協議書が揃わない場合はどうしたらよいのでしょうか?

相続税の申告期限までに遺産分割協議書が揃わない場合はどのようにするか解説します。

今回の事例

被相続人甲から農地を丙丁戊3人で相続することになりましたが、相続人のうち戊は現在海外で生活しており、分割協議書を作成することができるが、相続税の申告期眼後になってしまいます。この場合、相続税の納税猶予の適用の取り扱いはどのようになるのでしょうか。なお、乙は甲の相続前に死亡しています。

国内に住所が無い相続人がいる場合の遺産分割

被相続人から財産を取得する相続人が複数いる場合には、誰がどの財産を取得し、どの債務を承継するか確定する必要があります。民法上有効な遺言書がない場合には、相続人間で協議して決めなければなりません。この遺産分割協議によって決めた内容は、遺産分割協議書として書面に残されます。
国外に住んでいる相続人がいる場合には、一時帰国してもらうか、または電話・メール等の方法で遺産分割協議に参加してもらうことになります。相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日か10か月以内に行うこととなっており、また相続税の申告書には遺産分割協議書を添付するため、この相続税の申告期限が1つの目安とされています。ところで、遺産分割協議書には相続人全員の実印を押印し、相続税の申告では印鑑証明書を添付する必要がありますが、日本に住所がないと実印登録がないために、遺産分割協議書に実印を押すことができません。そこで、国外の居住地を管轄する日本領事館で遺産分割協議書に署名と拇印による押印をして、その相続人本人が、間違いなく署名・押印した旨の署名証明書をもらい、これを印鑑登録証明書の代わりとして遺産分割協議書に添付することになります。
このため、通常の遺産分割協議よりも書類の郵送や領事館に出向く時期と手間がかかりますので、早めに遺産分割協議を進める必要があります。

遺産分割がなされていない場合でも相続税の申告は必要

戊は海外で生活をしているため、分割協議書を作成することができるのが、相続税の申告期限後になってしまうとのことですが、相続税の申告は、相続財産が分割されていない場合であっても期限までにしなければなりません。分割されていないということで相続税の申告期限が延びることはありません。
そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。この場合、民法に規定する相続分または包括遺贈の割合で申告した後に、相続財産の分割が行われ、その分割にもとづき計算した税額と申告した税額とが異なるときは、実際に分割した財産の額にもとづいて修正申告または更正の請求をすることができます。

申告期限までに遺産分割が行われていない場合の農地等についての相続税の納税猶予の特例

農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例の適用を受けるためには、被相続人、農業相続人および農地等についてそれぞれ要件がありますが、これらの要件を備えたうえで、相続税の申告書に、納税猶予の特例の適用を受けようとする旨の記載がなければなりません。
しかし、相続税の申告書の提出期限までに、当該相続または遺贈により取得をした農地等の全部または一部が共同相続人または包括受遺者によってまだ分割されていない場合には、その分割されていない農地等は、当該相続税の申告書に納税猶予の特例の適用を受ける旨の記載をすることができないことになっています。
このため、相続税の申告書の提出期限までに、遺産分割がなされていない場合には、納税猶予の特例の適用は受けることができません。
配偶者の税額の軽減の特例や小規模宅地等の課税価格の特例については、当初の申告時にはその分割の行われていない財産についてこれらの特例の適用を受けることはできませんが、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておき、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合には、これらの特例の適用を受けることができます。この場合、分割が行われた日から4か月を経過する日までに更正の請求を行うことができます。また、相続税の申告書の提出がなかった場合または特例の適用を受けるための記載もしくは添付がない相続税の申告書の提出があった場合においても、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは、特例の適用を受けることができます(宥恕規定)
ところが、農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例については、このような規定がないため、当初の相続税申告で未分割の農地については、その後に有効な遺産分割が行われたとしても納税猶予の特例の適用は受けられません。もっとも、農地等の納税猶予の特例は一部分割、すなわち、農地については遺産分割を行い、他の相続財産については相続税の申告期限後に遺産分割を行うような場合であれば、適用を受けることができます。

申告期限までの対応

農地等の納税猶予の特例は、相続税の申告書の提出期限までに遺産分割がなされていないものについては、その適用を受けることはできませんし、また、他の特例のような宥恕規定もありません。
事例の場合、遺産分割協議書を作成できるのが、相続税の申告期限後になってしまうとのことで、その理由が、遺産分割の協議それ自体がまとまっていないのか、それとも、遺産分割協議はまとまっているが戊が海外にいるために署名証明書の入手等の手続が遅れて遺産分割協議書が作成できないだけなのかは明らかではありませんが、少なくとも農地等についての遺産分割については協議がまとまっていて完全な遺産分割協議書の提出ができないだけならば、相続税の申告書の提出期限前に税務署で事情を説明し、相続税の申告書の提出期限までに不完全な遺産分割協議書による申告書を提出し、後日速やかに署名証明書を添付した完全な遺産分割協議書を提出することで納税猶予の特例の適用を受けることが認められるかどうか判断を仰ぐべきでしょう。

まとめ

農地等についての相続税の納税猶予の特例は、少なくても特例の適用を受けようとする農地について相続税の申告期限までに遺産分割が行われなければ特例の適用を受けることができません。もし、相続税の申告期限までに遺産分割協議書を作成できない理由が、署名証明書の入手などの事情によるものだけであり、少なくとも特例の適用を受けようとする農地については分割協議がまとまっているのであれば、申告期限までに税務署で事情を説明すべきでしょう。その際は、相続税の申告書の提出期限前に税務署で事情を説明し、相続税の申告書の提出期限までに不完全な遺産分割協議書による申告書を提出し、後日速やかに署名証明書を添付した完全な遺産分割協議書を提出することで納税猶予の特例の適用を受けることが認められるかどうか判断を仰ぎましょう。
今回は、申告期限までに遺産分割が行われていない場合の農地等についての相続税の納税猶予の特例について解説しました。当事務所は、農地の相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。

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