BLOG ブログ

相続発生前の対策として遺言書の作成(その1)

生前に被相続人が、遺言ができる事項について方式に従い遺言書を作成しておくと、相続において遺言書の効力が優先します。今回は、遺言書の作成について解説します。

遺言書の作成について

遺言により、遺言者は、遺産分割方法の指定、相続分の指定、特定遺贈又は包括遺贈をすることができ、死後の財産分割の方法を指定したり、財産の処分をすることができます。法定相続分に従った遺産分割協議では解決しがたい事案において、遺言により、事案に応じた適切な財産分割方法を定めることにより、相続人間の争いを防止することができます。
有効な遺言をするには、遺言者が、遺言をする際に、遺言能力を有しなければなりません。15歳に達した者は遺言をすることができ、遺言に関しては、制限行為能力の制限は適用されないとされていることから、遺言能力は、意思能力と同様のもので、遺言の内容を理解し、遺言効果を弁識できる能力とされています。
遺言は、民法968条以下に定める方式に従わなければ、することができないとされ、厳格な要式行為性がとられ、所定の方式違反は原則として無効になるとされています。方式としては、普通方式として自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、特別方式として危急時遺言、隔絶地遺言があります。また、共同遺言は禁止されています。
遺言は、遺言者の最終意思を法的に強制する単独行為であることから、遺言として効力を認められるのは、一方的な意思によって決定することが可能である民法その他の法律に定められている事項に限られています。遺言事項以外の葬儀や埋葬の方法、遺留分侵害額請求権の不行使の希望などについては、法律上の効果が認められるものではありません。
法定相続人のうち、被相続人の配偶者、子及び直系尊属、子の代襲相続人は、被相続人の相続財産の一定の割合を確保できうる遺留分を有しています。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合が被相続人の財産の3分の1、その他の場合が被相続人の財産の2分の1 とされ、遺留分権利者が複数いる場合、遺留分の割合に遺留分権利者の法定相続分を乗じて個別的遺留分を算出することとなります。遺留分を侵害する遺言に対して、遺留分権利者は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったと知った時から1年の消減時効期間内に、遺留分侵害額に相当とする金銭支払請求できる遺留分侵害額請求権を行使することができ、侵害額の負担について親族間で深刻な争いを誘発する恐れがあります。
遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺贈の効力は生じないとされています。また、被相続人が特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言をした場合で、当該相続人が遺言者より先に死亡していた事案において、遺言者が当該推定相続人の代襲者その他の者に相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、遺言の効力は否定され、当該遺産は遺産分割の対象になるとされています。
また、遺言に停止条件が付され、その条件が遺言者の死亡後に成就した場合は、条件が成就したときからその効力を生じますが、条件の不成就が確定すれば、条件にかかる内容に無効な遺言となります。
被相続人の死亡時にある相続人が生存していることを停止条件とする遺言を作成した場合、同相続人が被相続人の生前に死亡したことにより条件が成就しないことが確定したとして、遺言書が効力を失う場合があります。

遺言事項

遺言できる事項

遺言は、遺言者の最終意思を法的に実現するための単独行為です。そのため、遺言により法的に効力を有する遺言事項が法定されています。遺言事項は、大きく分類して、身分上の事項に関する事項、相続に関する事項、相続財産の処分に関する事項、遺言執行に関する事項、その他の遺言事項に分類されます。遺産に関する事項としては、遺贈、相続分の指定、遺産分割方法の指定が重要です。実務上定着している「相続させる遺言」は、遺産分割方法の指定であるとともに、相続分の指定を含む場合があるとされていましたが、民法改正により、「遺産分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言」と表記されることになりました。これらのうち、相続分の指定、遺産分割方法の指定のように遺産の分割方法を大枠で示して具体的な方法は遺産分割協議に委ねる方がよいのか、遺贈、相続させる遺言のように遺産分割協議によることなく遺言の効力発生と同時に特定の遺産を特定の相続人に承継させる方がよいのかを判断することが重要です。

身分上の事項に関する事項

身分上の事項に関する事項に分類されるのは、認知、未成年後見人の指定及び未成年後見監督人の指定です。認知については、遺言執行及び遺言執行者の選任が必要となります。

相続に関する事項

ア 相続に関する事項
相続に関する事項に分類されるのは、推定相続人の廃除及び廃除の取消、相続分の指定又は指定の委託、遺産分割の方法の指定又は指定の委託・遺産分割の指定又は禁止、特別受益の持ち戻しの免除、共同相続人の担保責任の分担です。推定相続人の廃除及び廃除の取消については、遺言執行及び遺言執行者の選任が必要となります。
イ 相続分の指定・委託
相続分の指定・委託は、被相続人において、割合的に指定することも、特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言をすることによって、あわせて相続分の指定を行うこともあり、さらに第三者にこれを委託することも可能です。また、共同相続人全員に対して相続分を指定することだけでなく、相続人の1人又は数人についてのみ相続分を指定することも可能です。相続人の1人又は数人について相続分が指定された場合、他の相続人は残余財産について法定相続分に従って相続することになります。
ウ 遺産分割方法の指定
遺産分割方法の指定は、相続人間の遺産分割協議の方法をあらかじめ遺言者が遺言で指定しておくことで、遺産分割協議が遺言者の指定する方法の定めに従ってこれを行われるようにすることができます。もっとも、遺言執行者の存在がない限り、共同相続人全員が、遺言者の指定した遺産分割方法の指定と異なる遺産 分割協議を成立させた場合には、遺言と異なる遺産分割協議は有効であるとされています。
エ 相続させる遺言
相続させる遺言とは、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言のことをいい、公正証書遺言の実務上、相続人に財産を承継させる場合に遺贈ではなく、相続させる遺言が作成されてきました。相続させる遺言について、遺産分割方法の指定であることを前提としつつ、遺言の効力発生と同時に当該遺産が何らの行為を要せず、その相続人に相続によって承継されると判示され、遺産分割協議を経ることなく、財産を承継できることとなりました。相続させる遺言は、登記申請手続を受益相続人の単独申請で行うことができ、借家権、借地権について、賃貸人の承諾が不要であること、農地法3条の許可が不要であることについて遺贈との違いがあることから、特定の財産を特定の相続人に承継させたい場合は、原則として「相続させる」との文言を用いて、相続人以外の第三者に承継される場合は、「遺贈する」との文言を用いるのが通例です。

相続財産の処分に関する事項

ア 相続財産の処分に関する事項
相続財産の処分に関する事項に分類されるのは、遺贈、一般社団法人設立、信託の設定です。一般社団法人設立、信託の設定には、遺言執行及び遺言執行者の選任が必要です。遺贈については、遺言執行は必要ですが、遺言執行者の選任は任意的です。

イ 遺贈
遺贈は、被相続人が遺言によって行う無償で自己の財産を他人に与える処分行為です。遺贈は特定遺贈と包括遺贈とに分かれます。特定遺贈は、「甲預金をAに遺贈する」というように受遺者に与えられる目的物や利益を具体的に指定してなされる遺贈のことをいいます。目的物の種類、割合によって特定する場合も特定遺贈に当たります。特定遺贈は、遺言者の死亡によってその効力が生じ、特定物の遺贈の場合、その所有権又は特定の権利は当然に受遺者に移転することとなりますが、遺贈による物権変動を第三者に対抗するために対抗要件を備えることが必要となります。また、不特定物の遺贈の場合は、遺贈の効力発生と同時に物権的効力を生ぜず、目的物を特定して引渡しを請求する債権的効力を有するにとどまります。相続人などの遺贈義務者が遺贈の手続に協力しない場合も想定できるので、遺言執行者を定めておくことが重要です。
包括遺贈は、遺産全体の全部又は一部を対象とし、与えられる遺贈のことをいいます。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされています。遺贈者の一身専属権を除いて、遺贈者の財産に属した権利義務を包括的に承継することとなります。包括遺贈の場合は、受遺者に債務が承継されることとなります。また、割合的包括遺贈で、他に相続人がいる場合には、相続分に応じて遺贈者の財産を共有する関係になります。遺産共有関係を解消するために遺産分割協議が必要となります。特定遺贈の場合、受遺者は遺言者の死亡後であればいつでも遺贈の放棄ができるとされています。包括遺贈の場合は、原則として自己のために包括遺贈があったことを知ったときから3か月以内に放棄しなければならず、3か月以内に限定承認又は相続放棄の手続をしなかった場合、単純承認をしたものとされます。

遺言執行に関する事項

遺言執行に関する事項に分類されるのは、遺言執行者の指定又は指定の委託、遺言執行者が数人ある場合の執行方法に関する定め、遺言執行者の報酬に関する定めです。

その他の事項

その他の事項として、遺言の撤回、祭祀主宰者の指定、生命保険金受取人等の指定があります。

遺言書の作成が特に必要な事例

法定相続の規定では不都合な場合や遺産分割協議で紛争となることが予想される場合には遺言書作成の必要性が高くなります。以下の事例は、遺言書の作成が必要な典型的な事例といえます。

財産承継を考える者に相続権がない場合

被相続人に内縁の配偶者がいる場合、内縁の配偶者は法律上の「配偶者」に該当しないため、相続権が認められていません。また、被相続人の長男が先に死亡していて、長男の嫁に被相続人が世話をしてもらっていた事案では、長男の嫁に相続権がなく、これらの者か財産の承継をするためには遺言書の作成の必要性が高くなります。

遺産が不動産のみの場合

不動産は法定相続分の割合に基づき相続人間で共有となりますが、遺産のほほ全部を不動産が占める場合、遺産分割協議の際に紛争となりやすい傾向です。協議がまとまらない間の固定資産税の負担、不動産の利用処分について共有者全員の同意が必要となりますし、放置していると数次相続が生じ解決困難な事案となります。

子がいない夫婦のみの場合

配偶者の一方の死亡により、配偶者は、被相続人の親と、親が死亡している場合、被相続人の兄弟姉妹と相続関係になります。被相続人の親族との交流がない場合には円満な遺産分割協議が困難で、主な遺産が自宅不動産のみの場合は、配偶者の住居の確保のため代償金を支払う必要があり、自宅を売却しなければ成立させることができない場合があります。配偶者の老後の生活の困窮を防止するため遺言書の作成が必要な事例であるといえます。

遺産分割協議が困難な関係にある場合

先妻との間に子がいて、後妻もいる事例では、先妻の子と後妻との間の協議は困難なため、遺言書により遺産分割協議を経ることなく財産を承継させる必要性が高い事案といえます。また、正式には離婚していないものの別居中で婚姻関係が事実上破たんしている配偶者がいる場合で子がいない事例では、被相続人の親又は兄弟姉妹と配偶者の協議は困難であるため、遺言書の作成により遺産分割協議を避けることが望ましいでしょう。

法定相続の資格者に行方不明者がいる場合

遺産分割協議の際に、行方不明者のために不在者財産管理人の選任などの手続を経る必要があるため、その報酬の負担や手続に長期間を要することになり、遺産分割協議を経ることなく遺言書により処理する必要性が高い事案といえます。

事業を承継する者に事業用財産を承継させたい場合

事業承継の途中に事業者が亡くなった場合に、承継する子とその兄弟姉妹で事業用財産を分割すると事業が成り立たない場合、事業を承継する者に事業用財産を承継させる必要性が高い事案といえます。

法定相続の資格者がいない場合

相続財産管理人の選任による手続に費用と時間がかかるため、遺言書を作成しておく必要性が高い事案といえます。

遺言と税

個人が財産処分に関する事項を記載し、これによって相続人、受遺者が相続財産を取得した場合、相続税が課税されます。遺言書の作成時において、相続税の問題を考慮して配分を決定することが重要です。
配偶者と一親等の血族以外の者が遺贈によって相続財産を取得した場合、その者が負担する相続税は2割加算されてしまうため、配分に当たってこれに注意する必要があります。また、相続人以外の者に不動産を承継させる場合は、相続人が承継する場合と異なり、不動産取得税が課税され、登録免許税の軽減が認められません。
法人に対する遺贈の場合は、対象財産が時価相当額で譲渡されたとみなされ、含み益がある場合、遺言者に対する譲渡所得課税が行われ、受贈者の法人に対して時価相当額(通常の売買時価)を受贈益として法人税が課税されることになります。

まとめ

遺言書の作成について次の点に注意が必要です。
(1)死後の遺産分割方法を指定することができ、争族防止に役立つ。
(2)遺言能力のない者は遺言することができない。
(3)一定の手続に則って作成しなければならない。
(4)法定事項以外のことを遺言しても、法律上の効果はない。
(5)法律知識のない者が遺言書を作成した場合、相続人の遺留分を侵害する内容になってしまうおそれがある。
(6)相続人や受遺者が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、その者への遺言部分は失効してしまう。
(7)相続人への配慮を欠く内容の遺言書を作成してしまうと、かえって争いを激化させることがある。
今回は、遺言書の作成について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続に関する相談や手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

具体的なご相談をご検討の方はこちらをご覧ください

CONTACT
お問い合わせ

ご相談は無料です。
お気軽にお問い合わせください。