
相続発生前の対策として賃貸借関係の整理について解説します。
今回の事例

甲は、自宅の他に、以前、自宅として使用していた土地建物を所有しており、現在は建物を1年契約で乙に賃貸して更新を続けてきています。建物の維持管理の負担もありますし、今後の相続のことなどを考えると、甲としては、賃貸借契約を次回の更新時に終了し、適当な時期に売却したいと考えています。
相続財産に賃貸している不動産がある場合、あらかじめ賃貸借関係を整理しておくことが相続対策として有効になります。通常、賃借人がいる場合は、不動産の価値が下がるものであるため、賃貸借関係を整理して終了しておくことで、不動産の価値それ自体を上げることができます。ただし、賃貸人側で一方的に賃貸借契約を終了させることは制限されており、賃借人を保護するための要件が課されています。終了に伴い、立退料の支払や借地権の買取り、借地人等の建物の買取りなどが必要になる場合があります。そこで、効果とリスクや注意点について解説します。
相続財産に賃貸している不動産がある場合、あらかじめ賃貸借関係を整理しておくことが相続対策として有効になります。通常、賃借人がいる場合は、不動産の価値が下がるものであるため、賃貸借関係を整理して終了しておくことで、不動産の価値それ自体を上げることができます。ただし、賃貸人側で一方的に賃貸借契約を終了させることは制限されており、賃借人を保護するための要件が課されています。終了に伴い、立退料の支払や借地権の買取り、借地人等の建物の買取りなどが必要になる場合があります。そこで、効果とリスクや注意点について解説します。
効果とリスク及び注意点
効果
(1)相続財産に賃貸している不動産がある場合、賃貸借契約を終了しておくことで、不動産の価値を上げることができる。
土地や建物を賃貸している場合、一般的には、その不動産価値は下がります。そのため、被相続人が賃貸していた不動産を相続した相続人が売却しようとしても、賃貸借関係が付着したままでは、その不動産があまり高く売れないおそれがあります。そこで、賃貸借契約を終了させることで、不動産の価値を上げることができる。
(2)借地人が被相続人の土地を買い取る場合や共同売却できる場合は、資産を現金化でき、納税資金の対策となるし、遺産分割もしやすくすることができる。
賃貸借関係を終了させる以外にも、土地を建物所有目的で賃貸している場合に、借地権者に土地を買い取ってもらう、あるいは、借地人の建物と土地を共同売却することが可能であれば、土地を現金化することができます。売却で得た現金を納税資金とすることもできますし、遺産分割協議も容易になるメリットがあります。
ただし、借地人には、必ずしも賃貸人の要望に応じなければならない理由はなく、あくまで交渉が必要であることには留意が必要です。
土地や建物を賃貸している場合、一般的には、その不動産価値は下がります。そのため、被相続人が賃貸していた不動産を相続した相続人が売却しようとしても、賃貸借関係が付着したままでは、その不動産があまり高く売れないおそれがあります。そこで、賃貸借契約を終了させることで、不動産の価値を上げることができる。
(2)借地人が被相続人の土地を買い取る場合や共同売却できる場合は、資産を現金化でき、納税資金の対策となるし、遺産分割もしやすくすることができる。
賃貸借関係を終了させる以外にも、土地を建物所有目的で賃貸している場合に、借地権者に土地を買い取ってもらう、あるいは、借地人の建物と土地を共同売却することが可能であれば、土地を現金化することができます。売却で得た現金を納税資金とすることもできますし、遺産分割協議も容易になるメリットがあります。
ただし、借地人には、必ずしも賃貸人の要望に応じなければならない理由はなく、あくまで交渉が必要であることには留意が必要です。
リスク
(1)立退料または借地権や建物の買取費用が膨大となる場合がある。
立退料は、最終的には裁判所の裁量により判決で示されることになりますが、正当事由が乏しい場合には非常に高額になる場合があります。また、借地人との間で借地権の買取交渉をする場合も、交渉次第で、買取費用が膨大になる場合もあります。さらに、借地契約を期間満了で終了させる場合には、借地上に建物が存続していれば建物の買取りが必要になる場合があり、これによる費用負担の可能性もあります。
立退料は、最終的には裁判所の裁量により判決で示されることになりますが、正当事由が乏しい場合には非常に高額になる場合があります。また、借地人との間で借地権の買取交渉をする場合も、交渉次第で、買取費用が膨大になる場合もあります。さらに、借地契約を期間満了で終了させる場合には、借地上に建物が存続していれば建物の買取りが必要になる場合があり、これによる費用負担の可能性もあります。
注意点

(1)賃貸借契約を終了させるには、合意や債務不履行による場合の他、期間満了に伴う更新拒絶や解約申入れをする場合は正当事由が必要であり、正当事由を補完するために、立退料の支払、借地権の買取り、借地人等の建物買取り等の交渉が必要になる場合がある。
賃貸借関係を終了させる場合としては、①債務不履行解除による場合、②合意による場合、③期間満了による場合、④解約申入れによる場合が考えられます。
特に、借地・借家契約を終了させる場合には、借地借家法上、③及び④には賃借人を保護するための要件が定められており、更新拒絶・解約申入れに正当事由が必要です。この正当事由については、賃貸人側で土地・建物の使用を必要とする事情が重視されるほか、程度次第で立退料の支払が必要になります。
賃貸借関係を終了させる場合としては、①債務不履行解除による場合、②合意による場合、③期間満了による場合、④解約申入れによる場合が考えられます。
特に、借地・借家契約を終了させる場合には、借地借家法上、③及び④には賃借人を保護するための要件が定められており、更新拒絶・解約申入れに正当事由が必要です。この正当事由については、賃貸人側で土地・建物の使用を必要とする事情が重視されるほか、程度次第で立退料の支払が必要になります。
相続対策としての賃貸借契約の整理の必要性
不動産の賃貸借契約に関しては、賃貸する側では修繕等の負担、管理コストがかかるほか、それ自体が不動産の価値を下げる要因でもあり、賃借人との間の様々な紛争のリスクもあるので、相続対策を考える場合には、賃貸借契約を整理しておくことが重要です。なお、賃貸借契約を継続しておくことが賃料収益等の観点から相続人にとっても有益である場合には、賃貸借契約を維持しておくことも検討しましょう。
賃貸借契約の終了事由

賃借人の債務不履行による解除
賃借人が賃料を支払っていない、無断で転貸した、賃借している土地を無断で改造したり、増改築したなど、賃借人の義務違反がある場合には、賃貸人としては、債務不履行解除をして賃貸借関係を終了させることが考えられます。ただし、賃貸借関係は、人的信頼関係に基づく継続的契約であるために、信頼関係が破壊されて初めて解除できるなど、解除を制限する法理があることにも注意する必要があります。
合意解約
賃貸人としては、賃借人との合意により、賃貸借契約を解約して終了させることも考えられます。あくまでも合意が必要ですので、賃借人が応じない場合にはこれによることはできません。
期間満了
期間の定めのある賃貸借契約の場合、法定更新が定められており、期間か満了したからといって直ちに終了するものではありません。借地契約の場合は、期間が満了した場合でも、借地権者が更新を請求すれば、建物がある限り、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされています。これを阻止するためには、賃貸人側では遅滞なく異議を申し出る必要があるほか、その異議に正当事由のあることが必要と定められています。また、借家契約の場合は、相手方に期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知をしておかなければ、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされています。これを阻止するためには、賃貸人側では更新拒絶の通知を期間満了の1年前から6か月前までにする必要があるほか、その通知に正当事由のあることが必要と定められています。
解約申入れ
借家契約の場合、賃貸人としては、期間途中で解約申入れをして契約を終了させることも考えられます。しかしながら、この解約申入れについても、相手方に解約の6か月前までに申し入れる必要があり、その申入れに正当事由のあることが必要と定められています。
立退料
正当事由の判断基準としては、賃貸人及び賃借人(転借人を含みます。)のそれぞれの土地・建物を必要とする事情が最も重視されています。そして、土地・建物の賃貸借に関する従前の経過、土地・建物の利用状況、建物の現況、賃貸人側が明渡しの条件として立退料の支払を申し出た場合の申出が考慮されます。
このように、立退料については、正当事由の補完要素として位置づけられており、最終的には裁判所の裁量により金額が判断されます。
このように、立退料については、正当事由の補完要素として位置づけられており、最終的には裁判所の裁量により金額が判断されます。
まとめ

(1)借家契約がある場合、賃貸人がこれを期間満了により終了したい場合には、期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の通知をする必要がある。
(2)更新拒絶の通知には、正当事由が認められる必要がある。
(3)正当事由としては、賃貸人自身が賃貸物件で居住の必要性がある。賃貸物件の老朽化による修繕が高額で、倒壊のおそれが高く、すぐに取り壊さざるを得ないといった事情があれば、正当事由が認められやすい。
(4)売却したいといった事情のみでは賃貸人自身の建物使用の必要性が乏しいと考えられ、正当事由がないと判断される可能性がある。
(5)賃借人が新しい物件を見つけるまで待つか、早急に終了したい場合には相当高額な立退料を支払うなどの対応が必要になる。
(6)協議が調わない場合には、裁判所に共有物分割訴訟を提起することができる。
今回は、相続発生前の対策として賃貸借関係の整理について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
具体的なご相談をご検討の方はこちらをご覧ください
(2)更新拒絶の通知には、正当事由が認められる必要がある。
(3)正当事由としては、賃貸人自身が賃貸物件で居住の必要性がある。賃貸物件の老朽化による修繕が高額で、倒壊のおそれが高く、すぐに取り壊さざるを得ないといった事情があれば、正当事由が認められやすい。
(4)売却したいといった事情のみでは賃貸人自身の建物使用の必要性が乏しいと考えられ、正当事由がないと判断される可能性がある。
(5)賃借人が新しい物件を見つけるまで待つか、早急に終了したい場合には相当高額な立退料を支払うなどの対応が必要になる。
(6)協議が調わない場合には、裁判所に共有物分割訴訟を提起することができる。
今回は、相続発生前の対策として賃貸借関係の整理について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
具体的なご相談をご検討の方はこちらをご覧ください