
相続発生前の対策として不動産の時効取得に関する対応について解説します。
今回の事例

甲が死亡し、丙が相続しました。甲からは、祖父から自宅の土地建物のほかに、自宅の隣の土地を相続していたと聞いており、甲は21年にわたり周辺土地を畑として耕作し野菜栽培をしていました。ところが土地の登記を調べてみると自宅の隣の土地については元々祖父の名義ではなく第三者の登記のままであることが判明しました。このような場合は、誰の所有ということになるのでしょうか。今回は、被相続人が一定期間占有していた土地がある場合の取得時効の活用について、効果とリスク及び注意点について解説します。
効果とリスク及び注意点
効果
(1)被相続人が一定期間占有している他人の不動産がある場合、時効を援用して所有権を取得しておくことで、相続財産とすることができる。被相続人が一定期間占有していても、他人の不動産であれば、相続財産に含まれるものではありません。しかし、一定の要件を満たす場合には取得時効が成立し、時効を援用することによって、所有権を取得できる場合があります。この場合、当該不動産が相続財産に含まれることになります。
(2)相続財産の中に他人が占有している不動産がある場合、相続人が確定した時より6か月を経過するまでの間は時効が猶予され時効は完成しません。
(3)時効の完成猶予・更新の措置をとると、経過した期間を無意味にしてリセットすることができ、時効の完成を阻止することができます。したがって、第三者の時効取得により相続財産を失うことなく、維持・管理し続けることができます。
(2)相続財産の中に他人が占有している不動産がある場合、相続人が確定した時より6か月を経過するまでの間は時効が猶予され時効は完成しません。
(3)時効の完成猶予・更新の措置をとると、経過した期間を無意味にしてリセットすることができ、時効の完成を阻止することができます。したがって、第三者の時効取得により相続財産を失うことなく、維持・管理し続けることができます。
リスク
(1)訴訟になる場合、占有開始の時点の立証等が必要になり、時効取得する側でこれを立証できないと時効取得が認められないおそれがあります。民事訴訟で取得時効の成立を主張する場合、占有開始時と時効完成時(10年又は 20年の期間経過時)の両時点において占有していたことを証拠で立証する必要があります。なお、両時点において占有した証拠があるときは、その間、占有が継続したものと推定されます。占有開始時の占有を立証できない場合は、時効取得が認められないことになります。
注意点
(1)時効取得が認められるためには、一定の要件を満たす必要があり、占有開始時に善意占有であったか悪意占有であったかにより、時効期間に違いがある。所有権の取得時効には、20年の取得時効と10年の取得時効があります。その違いを端的にいうと、占有を開始した時点で善意・無過失であったかどうかです。 「善意」とは、自己の所有であると信ずることをいい、「無過失」とは、自己の所有であると信ずることについて無理からぬ事情があったことをいいます。
(2)他主占有の場合、相続により、自主占有に転換しておく必要があります。他主占有とは、自己に所有権を帰属させる意思を伴わない占有をいい、自主占有とは、所有の意思を伴う占有をいいます。所有の意思があるかどうかは、占有を開始した原因の権原が何かによって、外形的客観的に判断されます。例えば、売買により占有を開始した場合は自主占有、賃貸借により占有を開始した場合は他主占有です。被相続人の占有が他主占有であった場合でも、相続人が被相続人の死亡により相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、相続人が「新たな権原」により所有の意思をもって占有を始めたといえ、相続人の占有の性質が変更されると考えられています。
(2)他主占有の場合、相続により、自主占有に転換しておく必要があります。他主占有とは、自己に所有権を帰属させる意思を伴わない占有をいい、自主占有とは、所有の意思を伴う占有をいいます。所有の意思があるかどうかは、占有を開始した原因の権原が何かによって、外形的客観的に判断されます。例えば、売買により占有を開始した場合は自主占有、賃貸借により占有を開始した場合は他主占有です。被相続人の占有が他主占有であった場合でも、相続人が被相続人の死亡により相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、相続人が「新たな権原」により所有の意思をもって占有を始めたといえ、相続人の占有の性質が変更されると考えられています。
取得時効

20年の取得時効
20年間、所有の意思をもって、平穏に(強迫・暴行などの違法行為によらないこと)、 かつ公然と(占有を秘匿しないこと)、他人の物を占有した者は、その所有権を取得します。ただし、占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏かつ公然と占有するものであることが推定されています。
10年の取得時効
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始時に善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得します。占有者が所有の意思をもって、善意で平穏かつ公然と占有するものであることは推定されますが、無過失であることは推定されません。そこで、10年の取得時効を主張したい場合には、無過失を立証する必要があります。
共同相続と時効取得
数人の共同相続人の共有に属することになった不動産について、共同相続人の1人が現実に単独の占有を行っていたとしても、他の共同相続人の共有持分については、権限の性質上、客観的にみて所有の意思を欠き時効取得しないのが原則です。しかし、共同相続人の1人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公祖公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、異議も述べなかった等の事情などがある事案において、相続人はその相続のときから相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したものというべきであると判断されています。
土地管理の必要性
取得時効が成立するためには、20年間または10年間、占有していたことが必要です。裁判上は取得時効の成立を主張する側で占有し続けていたことまで主張立証する必要はなく、前後の両時点で占有していればその間の占有が推定されます。しかしながら、相手方からの反論で、占有していなかった時期があることが主張立証されれば、取得時効の成立が妨げられてしまいます。そのため、取得時効が成立するまでの間、占有者が占有して土地管理を継続していた事実が重要になります。
第三者の時効取得を阻止するための方策

相続財産に対する時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、一定の期間は時効の完成を猶予し、その期間は時効期間に算入しないこととするものをいいます。時効の完成猶予の場合は、時効の進行が止まるもので、従来経過した期間を生かしたまま時効の完成を遅らせる効果しかありません。民法160条は、相続財産に関しては相続人が確定した時等から6か月を経過するまでの間の時効の完成猶予を定めています。この規定は、相続が開始した場合に相続人が被相続人に属した相続財産に対する時効の更新の効果を有する手続を直ちにとることは困難という理由で定められているものです。この規定によって、相続人は、相続開始後に直ちに相続財産に対する時効の更新の効果を有する手続をとらなくても、6か月を経過するまでの間に対処すれば足りることになっています。
時効の更新
時効の更新とは、経過した期間を無意味にして時効の完成を阻止する効果を持つものです。
①時効の完成猶予と更新の双方が認められる事由としては、裁判上の請求、強制執行
があり、②時効の完成猶予のみ与えられる事由としては、仮差押え、仮処分、催告、協議を行う旨を書面で合意した場合などがあり、時効の利益を受ける者が時効によって権利を失う者に対し、権利の存在を知っている表示を行う承認を行った場合、時効の更新効が与えられます。①の典型例は、訴えの提起であり、相続人としては、相続財産を占有している第三者に対し、不法占拠の場合は明渡請求訴訟などを提起することになります。
①時効の完成猶予と更新の双方が認められる事由としては、裁判上の請求、強制執行
があり、②時効の完成猶予のみ与えられる事由としては、仮差押え、仮処分、催告、協議を行う旨を書面で合意した場合などがあり、時効の利益を受ける者が時効によって権利を失う者に対し、権利の存在を知っている表示を行う承認を行った場合、時効の更新効が与えられます。①の典型例は、訴えの提起であり、相続人としては、相続財産を占有している第三者に対し、不法占拠の場合は明渡請求訴訟などを提起することになります。
まとめ

(1)不動産の時効取得とは、一定期間他人の不動産を占有することで所有権の取得を認めること。
(2)被相続人が一定期間占有している他人の不動産について時効取得が成立しないか、あるいは被相続人の不動産について他人が一定期間占有していて時効取得が成立しないかに留意する必要がある。
(3)相続開始後6か月以内に時効の完成猶予・更新の措置をとるなどして第三者の時効取得を阻止しておくことが有効な方策になる。
(4)被相続人が一定期間占有していた土地が、実は他人名義の土地であった場合、相続人は取得時効の成立を援用し、所有権の原始取得によりその土地を相続財産にすることができる。
(5)土地の所有名義人の第三者に対して、時効の援用の意思表示をする必要がある。
(6)第三者から賃貸借契約又は使用貸借契約を締結していたので所有の意思がない、時効の中断をしたなど、様々な反論をしてくることも考えられるため過去の資料や第三者との関係性を調査するなどして、取得時効の成立要件を満たしているか予め検討しておくこと。
今回は、相続発生前の対策として不動産の時効取得に関する対応について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
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(2)被相続人が一定期間占有している他人の不動産について時効取得が成立しないか、あるいは被相続人の不動産について他人が一定期間占有していて時効取得が成立しないかに留意する必要がある。
(3)相続開始後6か月以内に時効の完成猶予・更新の措置をとるなどして第三者の時効取得を阻止しておくことが有効な方策になる。
(4)被相続人が一定期間占有していた土地が、実は他人名義の土地であった場合、相続人は取得時効の成立を援用し、所有権の原始取得によりその土地を相続財産にすることができる。
(5)土地の所有名義人の第三者に対して、時効の援用の意思表示をする必要がある。
(6)第三者から賃貸借契約又は使用貸借契約を締結していたので所有の意思がない、時効の中断をしたなど、様々な反論をしてくることも考えられるため過去の資料や第三者との関係性を調査するなどして、取得時効の成立要件を満たしているか予め検討しておくこと。
今回は、相続発生前の対策として不動産の時効取得に関する対応について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
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