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相続にあたり被相続人の保証債務はどうしたらよいのでしょうか?

相続財産の中に保証債務がある場合、この借入金債務の管理や承継にあたりどのような点に注意すべきでしようか。今回はこのことについて解説します。

保証債務の有無と内容の確認

保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負うことになります。保証契約は、平成17年4月1日以降に契約されたものであれば、書面又は電磁的記録でしなければその効力を生じませんので、被相続人が保証債務を負担している場合には、被相続人が金銭消費貸借契約書、保証契約書等の契約書を保管していることが多く、平成17年3月31日以前のものであっても、契約書を作成していることが多いので、まずは、被相続人か保管していた書類の中に 金銭消費貸借契約書、保証契約書等がないかを確認します。
また、相続人、受遣者、被相続人の生前に被相続人の介護をしていた者等、被相続人の生活状況をよく知る者への事情聴取や、被相続人宛に届いた郵便物等の書類を確認することにより、保証債務の存在を知ることもあります。
被相続人が負担していた保証債務の存在を確認できた場合、保証には、1回で一定の金額を借り入れた際の保証、銀行取引や継続的な売買取引のように一定の期間、一定限度額の範囲内で取引を継続し、債務が増減するような債務の根保証、身元保証等があります。保証の内容によって、保証債務が承継されるか否か、承継される範囲等が変わりますので、主債務・保証債務の内容、残高、返済履歴等を確認するとともに、保証の内容に応じて、保証債務を承継するか否か、承継する場合にはその内容等を確認する必要があります。

単純保証の場合

単純保証については、主債務者と保証人との間の人的信頼関係に基礎を置くものではありますが、単純保証人の地位及び単純保証債務は、相続によって相続人に承継されることになります。

根保証の場合

根保証とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証債務です。例えば、銀行からの継続的な借入れの保証、継続的な売買取引における債務の保証、不動産の賃貸借契約に基づく賃借人の債務の保証等がこれにあたります。
また、根保証には、保証期間及び保証金額の極度額を定めない包括根保証と、保証期間・保証金額の極度額の一方又は両方を定めた限定根保証があります。
最高裁は、包括根保証に関し、「継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては、特定の債務についてした通常の連帯保証の場合と異なり、その責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる保証人たる地位は、特段の事由のないかぎり、当事者その人と終始するものであって、連帯保証人の死亡後生じた主債務については、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解する。」と判示し、包括根保証の保証人の地位の相続性を否定しています。ただし、この場合でも、被相続人の生前に、既に主たる債務が発生していたときには、その債務は相続人に承継されます。
これに対し、不動産の賃貸借契約に基づく賃借人の債務の保証に関しては、保証人である被相続人の死亡後に発生した主たる債務についても、その保証人の地位を相続した相続人が当然その債務を負担すべきであると判示した大審院判決等があり、保証人の地位の相続性が肯定されています。
また、限定根保証に関しては、相続人が責任の及ぶ範囲を予測することができるとして、相続人に承継されると解されています。
しかしその後、平成16年及び平成29年に民法が改正され、以下のとおり、主たる債務の内容、根保証契約の締結時期等に応じて、根保証債務が相続人に承継されるか否かの結論が変わりますので、注意して確認する必要があります。

平成16年の民法改正以降の貸金等根保証契約

平成16年の民法改正により、保証人が個人であって、主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれる根保証契約については、書面又は電磁的記録で極度額を定めていなければ、その効力を生じないこととなりましたので、平成17年4月1日以降に締結された貸金等根保証契約の場合には、貸金等根保証契約書を確認し、極度額が定められているかを確認します。
また、「主たる債務者又は保証人が死亡したとき」が元本の確定事由とされましたので、平成17年4月1日以降に締結された貸金等根保証契約において、保証人である被相続人が死亡したときは、保証人の地位は相続されず、確定した元本の範囲内の債務について相続人に承継されます。

平成29年の民法改正以降の根保証契約

平成29年の民法改正により、主たる債務の範囲に含まれる債務の種別を問わず、個人根保証契約は、書面又は電磁的記録で極度額を定めていなければ、その効力を生じないこととなりましたので、令和2年4月1日以降に締結された個人根保証契約の場合には、根保証契約書を確認し、極度額が定められているかを確認します。
また、「主たる債務者又は保証人が死亡したとき」が元本の確定事由とされましたので、令和2年4月1日以降に締結された根保証契約において、保証人である被相続人が死亡したときは、保証人の地位は相続されず、確定した元本の範囲内の債務について相続人に承継されることになります。
なお、平成29年の民法改正により、令和2年4月1日以降に締結される事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日の前1か月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じませんので、当該公正証書が作成されているか否かを確認することも必要です。

身元保証の場合

身元保証とは、企業等に就職する際に、企業等の雇用主から求められる保証で、被用者の行為によって雇用主が受けた損害を身元保証人が賠償するという保証のことをいいます。
身元保証契約は、通常の保証契約とは異なり、責任の及ぶ範囲が広範であり、債務者と保証人との相互の信用を基礎として成立するもので、一身専属的な性質を有するものとして、特別の事情がない限り、身元保証人の死亡によって消滅し、相続人に承継されないと解されています。
ただし、既に被用者の行為により確定的に存在している身元保証債務は、相続によって承継すると解されています。

保証債務の評価

相続財産に保証債務があるときは、調停で遣産分割をする場合、遺留分を算定する場合、遺言執行で債務弁済をする場合などにおいて、保証債務の評価が問題となりますが、保証債務は、債務の保証人本人の債務ではないことから、債務として控除されません。ただし、相続税の評価においては、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かっ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除されます。

保証債務を承継するか否かの検討

被相続人の負っていた保証債務が相続人に承継されるものか否か、承継する場合にはその金額を確認した後、被相続人の積極財産と消極財産を踏まえ、相続するか否かを検討します。
保証債務等の消極財産が、積極財産より多い場合には、相続人は、相続の放棄や限定承認の手続をすることにより、債務の負担を回避することができます。
この相続の放棄や限定承認の手続は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から原則として3か月以内にしなければなりません。そのため、被相続人の相続財産を早めに調査し、相続の放棄や限定承認の手続を行うかどうかを判断する必要があります。
その際、相続放棄をすると、他の親族が相続人になり、債務を負担することもありますので、この点も考慮して判断する必要があります。

保証債務の承継

相続人は、被相続人の一身に専属したものを除き、被相続人の財産に帰属した一切の権利義務を承継しますので、相続人が承継する保証債務も相続人に承継されます。
また、相続人が複数人いる場合は、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。そして、上記の相続人が承継する保証債務については、各共同相続人の相続分に応じて当然に分割され、各共同相続人に被相続人の保証債務が承継されます。
したがって、相続人は、債権者に対し、承継した範囲において、保証債務を履行する義務を負うことになります。
なお、法定相続分と異なる割合で保証債務を承継することとしたい場合には、遺言や共同相続人全員の合意だけでは法定相続分と異なる割合で承継することはできず、当該保証債務の債権者の承認を得る必要があります。当該債権者の承認を得られた場合には、共同相続人は、債権者の承認を得た割合に従って、保証債務を履行する義務を負います。
共同相続人が履行した場合には、主債務者及び連帯保証人に対する求償が可能です。

まとめ

被相続人の保証債務の管理や承継するにあたり管理や承継は次の点を注意します。
(1)被相続人が保証債務を負担していたか、負担していた場合はその保証の内容等を確認する。
(2)被相続人が単純保証債務を負担していた場合、単純保証人の地位及び単純保証債務は承継される。
(3)被相続人が根保証債務を負担していた場合、主たる債務の内容、根保証契約の締結時期等によって、承継する根保証債務の範囲等が異なる。
(4)被相続人が身元保証をしていた場合、原則として相続人に承継されない。
(5)遺産分割をする場合(相続債務を含める合意がある場合)、遺留分を計算する場合、遺言執行で債務弁済をする場合などには、保証債務を評価する必要がある。
(6)保証債務が承継されるものか否か、承継される場合にはその金額を確認した後、相続の放棄や限定承認の手続をするか否かを検討する。
(7)保証債務は、相続開始によって相続分の割合に応じて当然に分割され、各共同相続人に承継される。
今回は、保証債務の管理や承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続に関する相談や手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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