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特定財産継承遺言において遺言執行者は相続登記を単独で申請することが可能ですか?

特定財産承継遺言(特定財産を相続させる旨の遺言)がなされた場合には、遺言執行者に、対抗要件の具備に必要な行為をする権限が付与されました。今回は、遺言執行者や特定財産承継遺言について解説します。

遺言執行者とは

 遺言執行者とは、遺言書の内容を実現化するために遺言者にかわって、必要な手続きを行う権限を有する者です。
 遺言執行者は、未成年者や破産者以外であれば誰でもなることができ、相続人や受遺者を遺言執行者にすることもできます。
 遺言執行者の選任は、遺言書の中で指定するか、相続開始後に相続人等の申立てにより、家庭裁判所で選任してもらうことができます。
 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に、必要な一切の行為をする権利義務を有しています。
 今回の法改正により、遺言者の意思と相続人との利益が相反する遺言内容であっても、遺言執行者はあくまでも遺言者の意思に従って、職務を行えばよいことが明文化されました。
 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができると規定され、遺言執行者がいなければ、相続人が遺贈の履行をしますが、遺言執行者がいれば、遺贈の履行は遺言執行者だけが行うことができ、相続人には遺贈の執行の権限がなくなります。
 いずれにしても、遺言執行者がいるかいないかは相続人に対して重大な利害関係が及ぶため、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者はその旨を相続人へ通知する義務があります。

特定財産承継遺言がなされた場合の遺言執行者の権限

 たとえば、「私の自宅を長男の甲に相続させる」といった、いわゆる「相続させる」旨の遺言については、新法では特定財産承継遺言として定義づけられました。
 そのうえで、特定財産承継遺言がなされた場合には、遺言執行者は、対抗要件の具備に必要な行為をする権限を、有するものとして明記されました。
 法改正の背景として、遺産分割方法の指定による権利変動についても、受益相続人の法定相続分を超える部分については、登記などの対抗問題として処理するものとされたこと、相続時に相続財産に属する不動産について登記がされないために、その所有者が不明確になっている不動産が、多数存在することが社会問題となっていること等があり、そのため遺言執行者において速やかに対抗要件の具備をさせる必要性が高まったためであると説明されています。

【改正民法1014条2項】
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共有相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

不動産を目的とする特定財産承継遺言がなされた場合

 不動産を目的とする特定財産承継遺言がなされた場合には、遺言執行者は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときを除き、単独で、相続による権利の移転の登記の申請をすることができます。
 これは、遺言執行者において、速やかに対抗要件を実現させる必要性が高まったことから、遺言執行者の権限として明確化されました。
 遺言執行者は、受益相続人の法定相続人として登記の申請をすることになるため、相続登記が完了した際には、遺言執行者に対して、登記識別情報が通知されることになります。
 なお、受益相続人が対抗要件を備えることは、遺言の執行の妨害行為には該当しないものとされており、受益相続人が自ら単独で相続による権利の移転の登記を、申請することができることに変わりはありません。
 ※登記識別情報とは、従来の登記済権利証に代わるもので、不動産の名義変更された場合に新たに名義人となる人に登記所から通知される書類(情報)です。

法定単純承認への該当性

 相続人は、単純承認をしたときは、被相続人の権利義務を承継することになります。 民法921条1項には、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」には、相続人は単純承認をしたものとすると規定されています。しかしながら、遺言執行者が単独で行う相続登記についても、同様に受益相続人における法定単純承認事由に該当するか否かという疑問が生じます。
 遺言執行者は、遺言の内容を実現することをその職務とする者であり、受益相続人において放棄ないし限定承認をするか否かの決定をする権限を有してはいない点に着目すると、遺言執行者が対抗要件を具備することについては、一概に法定単純承認事由に該当するものとはいえないのではないかとも考えられます。
 他方で、そのように判断してよいかは現時点で必ずしも明確ではなく、もし仮に法定単純承認事由に該当しないとしても、受益相続人が相続を放棄した場合には、放棄した者の名義となった財産の返還をめぐって複雑な権利関係が生じる可能性があります。
 したがって、遺言執行者としては、事前に受益相続人が相続を承認する意思を有することを確認したうえで、その手続にあたるのが望ましいものと考えられます。

経過措置

 本規律は、改正法の施行日(令和元年7月1日)前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用がありません。
 施行日前にされた遺言は、通常、旧法の規定を前提として作成されたものであると考えられるため、仮に相続の開始が改正法の施行日以後であるとしても、これに新法の規定を適用するには相当でないと考えられるからです。

まとめ

 改正法により遺言執行者の権限等が、明確になりました。しかし、改正にあたり、これまでの法解釈を踏襲したもので、相続人の権利が以前よりも制限されるものでもありません。
 特定財産承継遺言は、実務上とても多い遺言書の内容ですが、今後は、この財産の名義変更手続きは、遺言執行者が単独でできることになります。
 そのため、遺言執行者が対抗要件を具備する行為をするには、事前に、受益相続人が相続を承認する意思があることを確認し、遺言執行者において、対抗要件の具備を行うことについて、受益相続人の了承を得たうえで、行うのが望ましいものと考えられます。
 ただし、遺産分割方法の指定による権利変動についても、受益相続人の法定相続分を超える部分については、対抗問題として処理することとされたことから、遺言執行者による速やかな対抗要件の具備が求められている点には十分に注意しなければなりません。
 なお、施行日前に作成された遺言に係る遺言執行者については、改正法の適用がないことから、遺言書の作成年月日を確認する必要があります。
 相続開始前の時点であって、もし既に作成された遺言書があり、当該遺言書が改正法の施行日前に作成されたものであれば、改正法の適用を受けるよう遺言書の書き直しを検討することも有益であろうと考えられます。
 法改正により、不動産に関する登記手続きはこれまでと大きく異なりますので、専門家である司法書士に依頼されるころをお勧めします。当事務所は、相続や遺言に多くの実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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