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消滅時効期間が経過している債務の管理や承継に当たってどのような点に注意すべきでしょうか?

消滅時効期間が経過している債務の管理や承継に当たってどのような点に注意すべきでしょうか?今回はこのことについて解説します。

相続債務の消減時効期間の確認

債権は、一定の期間を経過すると、時効によって消滅します。相続財産の中に借入金債務等の消極財産がある場合において、一見消極財産の方が積極財産より多いように思われるときであっても、消極財産を詳しく調査してみると、時効によって消滅している債務が含まれていることが判明することがあります。そして、時効によって消滅した債務を除外すると、実際には積極財産の方が多いという場合もあります。したがって、債権債務について消滅時効期間が経過しているものがないかどうかを確認することは重要です。
そこでまず、消滅時効期間を確認する必要がありますが、平成29年の債権法改正において、消減時効に関する改正がありました。そのため、債権の発生時期、債権の内容等によって消減時効期間が異なりますので、注意してください

債権が令和2年3月31日以前に発生したものである場合

原則として、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効により消滅します。ただし、商行為によって生じた債権の場合は、原則として、5年間行使しないときは、時効により消滅します。
また、飲食店等の飲食料に係る債権は1年、生産者等の産物の代価に係る債権は2年等、職業別に短期消滅時効期間が定められているものもあります。

債権が令和2年4月1日以後に発生したものである場合

債権法改正により、商事消滅時効及び職業別の短期消滅時効の制度が廃止され、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10 年間行使しないときのいずれか早い時期に、時効により消減します。
しかし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については、権利を行使することができる時から10年間という時効期間が20年間に伸長されます。

不法行為による損害賠償請求権の場合

被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、又は不法行為の時から20年間行使しないときのいずれか早い時期に、時効により消滅します。
しかし、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権については、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間という時効期間が5 年間に伸長されます。ただし、令和2年4月1日において既に3年の時効が完成している場合には、改正前の民法が適用され、時効期間は5年間に伸長されず、3年間で時効により消滅します。

時効の更新・完成猶予(時効の中断・停止)の有無の調査

消滅時効期間を確認した後は、時効の更新・完成猶予事由の有無を調査します。消滅時効期間が経過しているように思われる場合であっても、時効の更新・完成猶予により時効が完成していないことがありますので、注意してください。
また、この時効の更新・完成猶予の制度も、債権法改正において改正されていますので、以下のとおり、時効の更新・完成猶予事由が生じた時期によって適用される法令が異なります。

令和2年3月31日以前に時効の中断・停止の事由が生じた場合

時効の中断とは、法定の中断事由があったときに、それまで経過した時効期間がリセットされ、その事由が終了したときから新たな時効期間が進行する制度です。
時効の中断事由には、裁判上の請求等の請求、差押え、仮差押え又は仮処分、及び承認があります。
また、時効の停止とは、一定期間時効の完成を猶予する制度です。時効の停止事由には、未成年者又は成年被後見人の法定代理人の不在等、夫婦間の婚姻解消、相続財産、及び天災等があります。特にこの中の相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しませんので、注意してください。

令和2年4月1日以後に時効の更新・完成猶予の事由が生じた場合

債権法改正により、旧法における時効の中断を、その効果に応じて、時効の完成を猶予する効果を有する完成猶予と時効を新たに進行させる効果を有する更新に再構成するとともに、時効の完成猶予の効果を有する旧法の時効の停止は完成猶予に再構成されました。
また、債権法改正により、当事者間において権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、時効の完成が猶予される旨の規定が新設されました。これにより、その合意があった時から1年を 経過した時、その合意において1年未満の期間を当事者が協議を行う期間と定めたときはその期間を経過した時、当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時、の3つの時期のうちいずれか早い時までの間は、時効の完成が猶予され、再度の合意によって最大5年間時効の完成を猶予できることとなりましたので、この合意がなされていないかについても注意が必要です。
上記の時効の更新・完成猶予の事由が生じていたか否かについて、被相続人が保管していた契約書等の書類や、債権者に問い合わせて確認します。
この際には、特に承認をしてしまわないよう注意してください。例えば、債権者に問い合わせた際に、債権者から支払を督促されて借入金債務を返済してしまった場合や、借入金債務を認めてしまった場合には、これにより債務の承認をしたことになりますので、消滅時効の援用ができなくなります。
なお、承認に関しては、保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合には、当該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として当該主たる債務の消減時効を中断する効力を有すると判断した判例があります。

債務の評価

相続財産に債務があるときは、調停で遺産分割をする場合、遺留分を算定する場合、遺言執行で債務弁済をする場合などにおいて、相続債務の評価が問題となります。相続債務の評価は、相続開始時の債務額が評価額となりますが、具体的な評価方法については、相続税法上の取扱いが参考になります。相続税法上は、債務は遺産総額から差し引くことができますが、債務控除の対象となる債務は、相続開始時に被相続人の債務として確実に存在している債務である必要があります。相続開始の時において、既に消減時効の完成した債務は、確実と認められる債務に該当しないものとして取り扱われますので、遺産総額から差し引くことはできません。

時効を援用するか否かの検討

相続債務の時効援用は、法定単純承認となるため、相続人が消滅時効期間か 経過している相続債務の時効の援用の手続を行う場合には、仮に時効の援用が認められなかったとしても相続財産を処分したと判断される可能性があり、相続の放棄や限定承認ができなくなるおそれがあります。これも踏まえて、時効の援用をするか否かを慎重に検討する必要があります。

時効援用の手続

消滅時効を援用することとした場合には、相続人は、債権者に対し、時効を援用する旨を通知する文書を内容証明郵便で送付し、時効の援用の手続を行います。消滅時効が完成していた場合には、時効の援用により、相続債務の返済義務がなくなります。

まとめ

消滅時効期間が経過している債務の管理や承継に当たってどのような点に注意すべきことは次のとおりです。
(1)相続債務の発生時期・内容を調査し、消滅時効期間が経過していないかを確認する
(2)時効の更新・完成猶予事由がある場合消滅時効期間が経過していないおそれがある
(3)相続開始の時において、既に消滅時効の完成した債務は、遺産分割をする場合、遺留分を計算する場合、遺言執行で債務弁済をする場合などに相続債務として評価しない。
(4)相続の放棄や限定承認の手続を行うことも考慮した上で、消滅時効を援用する。
(5)相続人が消滅時効を援用する場合には、時効を援用する旨を通知する文書を内容証明郵便で送付する。
今回は、消滅時効期間が経過している債務の管理や承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続に関する相談や手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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