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株式会社の後継者が贈与税相続税の納付が猶予又は免除される制度内容と利用手続は?

株式会社の後継者が株式を取得した場合に、贈与税、相続税の納付が猶予若しくは免除される制度内容と利用手続はどうしたらよいのでしょうか?今回はこのことについて解説します。

法人版事業承継税制について

中小企業のオーナー経営者にとっては、子供や孫等への事業の円滑な承継が最大の関心事の1つです。しかし、事業の承継に当たっては、承継した後継者が多額の贈与税や相続税を負担しなければならなくなることも多いですし、その場合に、資産はあっても納税のための現預金がないということも少なくありません。
事業承継税制は、このような事態に対応するために、平成21年度税制改正によって租税特別措置法上導入された制度です。
その後幾度かの改正を経て現在に至っていますが、同税制は、後継者である受贈者・相続人等が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づく認定を受けている会社の株式等を贈与又は相続ないし遺贈により取得した場合において、その株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件の下でその納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
なお、青色申告に係る事業を行っていた個人事業者の後継者として経営承継円滑化法の認定を受けた者が、個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合において、その事業用資産に係る贈与税・相続税について、一定の要件の下、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される個人版事業承継税制もあります。

法人版事業承継税制の利用が適合しやすいケース

法人版事業承継税制の利用が適合しやすいケースで主なものとしては、次のようなケースが考えられます。
①株式等の相続税評価額が非常に高いケース
②相続財産に占める株式等の割合が高く、また、相続人に納税のための現預金が少なく、これから準備することも困難なケース
③会社の事業の状況から、今後も株式等の評価額が上昇することが見込まれるケー ス

法人版事業承継税制を利用する場合の主な注意点

第一に、同制度を利用する場合、将来にわたり継続的な管理が必要になることがあります。一定の雇用確保要件を充足することや税務署への届出を定期的に行うことなどです。これができないと、猶予された贈与税や相続税を納付しなければならなくなります。
第二に、同制度の対象となるのは相続財産のうち株式等であり、それ以外の財産については通常どおり課税されます。
第三に、株式等の相続税評価額が高い場合において、後継者ではない相続人も株式等を相続するときは、その評価額を前提として通常の課税がなされます。よって、そのような場合、後継者以外の相続人との関係では、同制度以外の事前の検討や相続税対策か必要なことは変わりません。
第四に、贈与の場合において、後継者への株式等の贈与が特別受益となるなどして結果として遺留分を侵害されることとなる後継者以外の相続人がいる場合には、将来的に当該相続人から遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。遺留分侵害額請求がなされるか否かは事前に分かることではありませんので、事前に合意ができれば別ですが、そうでない場合は円滑な承継を阻害するリスクとなる可能性もあります。

事業承継税制の一般措置

事業承継税制には、併存するものとして、一般措置と、平成30 年税制改正で設けられた特例措置があります。会社が経営承継円滑化法に基づく認定を受ける必要があることは同様ですが、適用期限の有無や納税猶予割合などに違いがあります。
一般措置は、事前の計画策定・提出等は不要ですが、対象株数は総株式数の最大3 分の2までであり、納税猶予割合も相続は80 %までに限定されています。これに対し、特例措置は、令和5年3月31日までに特例承継計画の提出をした場合の令和9年12月 31日までの間の贈与・相続等が対象になりますが、対象株数や納税猶予割合の限定はありません。また、同一の会社につき、先代経営者等を含む複数の者からの贈与について適 用が認められます。

非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除を受けるための特例措置の要件

非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除を受けるための特例措置の要件は、以下のとおりです。なお、ここでいう非上場株式等とは、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の株式又は出資のうち議決 権に制限のないものに限られ、医療法人等の出資は該当しません。

会社の主な要件

上場会社、中小企業者に該当しない会社、風俗営業会社、資産管理会社のいずれにも該当しないこと等です。

後継者である受贈者・相続人等の主な要件

贈与の場合、①贈与の時において会社の代表権を有していること、②贈与の時において20歳以上であること、贈与の時において役員の就任から3年以上を経過していること、③贈与の時において後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50 %超の議決権数を保有することとなること、④贈与の時において後継者の有する議決権数が、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること、⑤贈与のときから贈与税申告書提出期限日まで引き続き贈与により取得した株式等の全てを保有していること等です。
相続等の場合、①相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において会社の代表権を有していること、②相続開始の時において後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50 %超の議決権数を保有することとなること、③相続開始の時において後継者の有する議決権数が、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること、④相続開始の直前において会社の役員であること、⑤相続等の時から相続税申告提出期限日まで引き続き相続により取得した株式等の全てを保有していること等です。

先代経営者等である贈与者・被相続人の主な要件

贈与の場合、①会社の代表権を有していたこと、②贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50 %超の議決権数を保有し、かっ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと、③贈与の時において会社の代表権を有していないこと等です。
相続等の場合、①会社の代表権を有していたこと、②相続開始の直前において、被相続人及び被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50 %超の議決権数を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと等です。

特例措置の手続

非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除を受けるための特例措置の手続は、以下のとおりです。

①経営承継円滑化法に基づく特例承継計画の都道府県知事による確認

会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した特例承継計画を策定し、認定経営革新等支援機関の所見を記載の上、令和5年3月31日までに都道府県知事に提出し、その確認を受けます。なお、贈与の後でも、経営承継円滑化法の認定申請時までは特例承継計画の提出は可能です。

②株式の贈与又は相続開始

贈与の場合、先代経営者は、後継者が既に保有している株式等と合計し発行済株式等の総数の3分の2に達するまでの株式等を必ず贈与しなければなりませんが、3分の2を超える部分については贈与しても贈与しなくても構いません。ただし、特例措置は最大100 %の納税猶予が可能ですので、税負担を優先すれば全株一括贈与が有効といえます。発言権や経営権を重視して一部贈与にするのか、税負担を重視して全株一括贈与するのかは、慎重に検討する必要があるで
株式等の贈与に際し先代経営者等が代表権を返上しても、取締役等の役員として残り、役員報酬を得つつ、経営意思決定に参画し続けることは可能です。どのよう な事業承継のステップを踏んでいくのかについては、先代経営者等と後継者とがよく話し合い進めていくことが重要といえます。
なお、贈与又は相続開始は、令和9年12月31日までである必要があります。特に贈与の場合は、それまでに贈与自体を実行すればよいため、例えば、先に代表権を後継者に譲った上で、時機を見て株式等を贈与することもできます。そのため、特例措置の適用を目指すとしても、すぐに株式等を贈与する必要はありません。相続等と異なり贈与の場合には、事業承継を計画的に進めることができるといえます。

③都道府県知事による経営承継円滑化法に基づく認定

後継者である受贈者・相続人の要件、先代経営者等である贈与者・被相続人の要件を満たしていることについて、都道府県知事による経営承継円滑化法に基づく認定を受けます。
この認定を受けるためには、贈与の場合は贈与を受けた年の翌年の1月15日までに、相続等の場合は相続開始の日の翌日から5か月経過後8か月以内に、その認定申請をする必要があります。なお、この申請は後継者等ではなく会社が行います。

④贈与税・相続税の申告書の提出と担保の提供

贈与税・相続税の申告期限までに、事業承継税制の適用を受ける旨を記載した贈与税・相続税の申告書及び定められた書類を税務署に提出するとともに、納税が猶予される贈与税・相続税の額及びそれらの利子税の額に見合う担保を税務署に提供します。対象の株式等の全てを担保として提供した場合には、この要件を満たしたものとみなされます。

⑤納税猶予の継続届出書の提出

贈与税・相続税の申告書等を提出した後、原則5年間の特例経営承継期間内は、毎年1回、税務署に納税猶予の継続届出書を提出します。この継続届出書を提出する前提として、経営承継円滑化法上の都道府県知事に対する年次報告も必要です。特例経営承継期間経過後は、3年ごとに提出します。この提出がない場合は、猶予されている贈与税・相続税の全額とそれらの利子税を納付しなければならなくなります。

特例措置の効果

贈与税・相続税について事業承継税制を利用した場合、後継者に課税されるはずだった当初の贈与税・相続税の納税が猶予されます。
そして、贈与税・相続税の納税猶予の後、次の場合には、免除届出書や免除申請書、その計算明細等の添付資料を添付し、納税地の所轄税務署長に提出するなど必要な手続をとることによって、当該贈与税・相続税は全部免除されます。
・後継者が死亡した場合
・先代経営者等が死亡した場合
・特例経営承継期間の経過後に後継者が免除対象贈与を行った場合
また、会社が破産手続開始の決定を受けたり合併等により消滅したりした場合等にも、一定の要件の下、当該贈与税・相続税は一定部分が免除されます。
これと異なり、次の場合等には、納税猶予された贈与税・相続税の納税をする必要が生じます。

原則5年間の特例経営承継期間内

以下の場合等には、猶予されている贈与税・相続税の全額とそれらの利子税を納付しなければなりません。
・後継者が会社の代表権を有しなくなった場合
・適用を受けた株式の一部を譲渡等した場合
・会社が資産管理会社等に該当した場合なお、一般措置において求められる雇用確保の要件は特例措置では条文が準用されていません。これは経営承継円滑化法上の手続(経営承継規20)をもって代えられ、実質的に緩和されていると考えられています。

原則5年間の特例経営贈与承継期間の経過後

以下の場合には、譲渡等した部分に対応する贈与税・相続税とそれらの利子税を納付しなければなりません
・適用を受けた株式の一部を譲渡等した場合
・会社が資産管理会社等に該当した場合

税制改正に係る最新情報の確認

事業承継税制は、今後毎年行われる税制改正によって変更される可能性があります。また、特例措置の適用期限(令和9年12月31日まで)に関し、現在の特例措置に基づく贈与税等の納税猶予及び免除の長期間継続を想定するとしても、その適用期限の後の贈与や相続等に係る税制は一般措置に戻るのか特例措置が継続されるのか未定です。事業承継税制の利用を検討する場合には、最新の情報を必ず確認してください。

まとめ

株式会社の後継者が株式を取得した場合に、贈与税、相続税の納付が猶予若しくは免除される制度の利用手続について注意すべきことは次のとおりです。
(1)贈与又は相続等により取得した株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件の下でその納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度(法人版事業承継税制) がある。
(2)法人版事業承継税制の利用が適合しやすいケースとそうでないケースがあるため、当該事案がどちらに当たるかを確認する。
(3)事業承継税制には、一般措置と特例措置が併存しており、適用期限の有無や納税猶予割合などに違いがあるため注意する。
(4)事業承継税制の特例措置の適用の前提となる要件に注意する。
(5)前提となる要件を満たしていた場合、事業承継税制の適用を受けるための手続を確認する。
(6)事業承継税制(特例措置)を利用した場合、後継者に課税されるはすだった当初の贈与税・相続税の納税が猶予され、その納税猶予の後、一定の条件下で必要な手続をとることによって、当該贈与税・相続税は全部免除される。
(7)事業承継税制は、毎年行われる税制改正によって変更される可能性があるため、最新情報に注意する。
今回は、法人版事業承継税制について解説しました。当事務所は、事業承継に関する相談もお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。

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