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新たに創設された配偶者短期居住権とは? 配偶者居住権とどう違うの?

相続発生時に、配偶者が住み慣れた居宅から直ちに立ち退かねばならないという状況を避けるため、配偶者に比較的短期間の居住権を付与する制度が創設されました。今回は、この配偶者短期居住権の内容と配偶者居住権との違いについて解説します。

配偶者短期居住権が創設された理由は何か

夫婦の一方が亡くなったとき、残された配偶者は、それまで生活していた自宅に引き続き居住していくことを希望するのが一般的だと考えられます。特に、高齢なった配偶者であれば、長年の伴侶を亡くした途端に自宅に住めなくなるということは、精神的にも身体的にもたいへんな苦痛を強いられることになります。そこで、相続発生後、居住してきた建物を直ちに従前どおりに使えなくなったりすることや、配偶者以外の者が所有権を取得したことで配偶者が突然立ち退きを迫られるようなことがないように、一時的に居住を継続できるような仕組みを創設しました。

配偶者短期居住権はどのような場合に成立するのか

配偶者短期居住権は、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に、相続開始時に無償で居住していた場合に成立します

被相続人の配偶者

 配偶者短期居住権を取得することができるのは、被相続人の配偶者です。ここでいう配偶者とは相続開始時に被相続人と法律上の婚姻関係にあった者であり、内縁などの事実婚関係にあった者は含まれません。配偶者が相続放棄した場合でも、配偶者短期居住権は成立します。他方で、廃除されたり欠格事由に該当した場合は成立しないとされています。

被相続人の財産に属した建物

被相続人の財産に属した建物とは、相続発生当時に被相続人が所有権を有していた建物のことをいいます。
被相続人が建物が共有持分を有していた場合は、当該持分について配偶者短期居住権が成立し得ることとなります。つまり、配偶者以外の相続人が遺贈等によって当該持分を取得した場合に、成立要件を満たせば、配偶者は当該持分についてのみ配偶者短期居住権をの成立を主張することできます。

相続開始時に無償で居住

 配偶者は、相続開始時に建物に無償で居住していたことが必要です。建物については、全部ではなく一部を無償で使用していた場合でも構いません。一部の場合は、その部分だけに配偶者短期居住権が成立します。また、一時的に入院していたり、リハビリのため介護施設等に一時入所していたとしても、生活の本拠が建物にあれば、その建物に居住していると考えられます。なお、配偶者が被相続人と同居していたことまでは求められていません。

配偶者短期居住権が成立した場合には、どのような効力が生じるのか

 配偶者短期居住権が成立した場合、配偶者は居住建物を無償で使用することができます。
 無償で使用することができる範囲は、居住建物のうち、配偶者が無償で使用していた部分に限られます。有償で使用していた部分については、配偶者短期居住権は成立せず、賃貸借契約等の有償使用に関する契約が継続します。使用については、居住に限らず、店舗や事務所などの用途で使用しても構いません。たとえば配偶者が被相続人に賃料を支払って自宅の一部に小売店を営んでいた場合は、店舗部分に配偶者短期居住権は成立しないこととなります。
 配偶者は、配偶者短期居住権に基づいて、一定期間無償で使用することができます。期間については、遺産分割をする場合と、それ以外の場合とに分けて規定されています。
配偶者を含む共同相続人間で遺産分割する場合は、相続開始日から遺産分割によって建物所有権の帰属が確定した日までとされています。ただし、相続発生後すぐに遺産分割が成立したとしても、少なくても相続開始日から6か月を経過する日までは存続するとされています。

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違いは何か

 配偶者居住権と配偶者短期居住権は、ともに夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が従前の居住環境を維持できるよう、建物に居住することを保護する目的で創設された制度です。いずれも配偶者のみに認められる帰属上の一身専属権であるため、配偶者以外の者に権利を譲渡することはできません。また、いずれも建物における居住を目的としており、建物の使用にあたっては配偶者に善管注意義務や用法遵守義務が課されています。
 配偶者居住権は、原則として配偶者の終身の間という比較的長期間にわたって居住権を保護するものとされています。他方、配偶者短期居住権は、相続発生直後から遺産分割によって建物所有権の帰属が確定するまでといった比較的短い期間の居住権を主に保護しています。短い期間であることが前提となっていることから、配偶者短期居住権は要件を満たせば当然に成立するものとされていまが、第三者対抗力は認められていません。配偶者の善管注意義務違反などの場合には、いずれの居住権においても建物所有者等から居住権の消滅請求をすることができるとされていますが、配偶者居住権では相当期間を定めて是正催告した上での消滅請求とされており、配偶者短期居住権では直ちに消滅請求をすることができることになっています。また、配偶者居住権は遺産分割等で一定の財産的価値を取得したものとして評価されますが、配偶者短期居住権は財産的評価を受けるものではありません。そのため、財産的な価値を回収する必要もないことから、配偶者短期居住権には収益権限が認められていません。

配偶者短期居住権はどのような場合に消滅するのか

 配偶者短期居住権は、遺産分割によって建物所有者によって建物所有権の帰属が確定するなどの法定の存続期間が満了することのほか、配偶者の死亡や建物取得者による消滅請求などによって消滅します。

配偶者の死亡

 配偶者居住権は、配偶者のみに認められた帰属上の一審専属権とされており、配偶者が死亡したときは消滅するとされています。所有権や賃借権のように相続の対象とはなりません。配偶者死亡による配偶者短期居住権の消滅によって発生する建物の返還義務などの権利義務は、配偶者の相続人が履行することになります。

遺産分割の確定

 配偶者が相続人の1人として遺産分割を行い、建物所有権の帰属が確定した場合は、配偶者短期居住権の存続期間が終了します。ただし、相続開始時から6か月以内に遺産分割が確定した場合、配偶者短期居住権は6か月を経過する日までに存続するとされています。
 なお、6か月以内に遺産分割で配偶者が配偶者居住権を取得した場合は、機関の経過を待たず、配偶者短期居住権は消滅することになります。
また、配偶者短期居住権は、配偶者居住権と同様に債権の性質を有していることから、放棄や混同によって消滅します。

消滅の申入れ

 配偶者が相続放棄をした場合や遺贈等によって建物所有権が直ちに配偶者以外の相続人等に帰属した場合等は、建物所有者が配偶者短期居住権の消滅申入れをした日から6か月を経過する日に消滅します。なお、相続や遺贈等によって、建物の所有権を複数の相続人等が取得した場合、各取得者が単独で消滅の申入れをすることができるとされています。

建物滅失等

 配偶者短期居住権が設定されている建物の全部が滅失して使用できなくなった場合は、配偶者短期居住権は消滅します。
同様に、建物に設定されている担保権の実行などによって、建物の使用ができなくなった場合には、配偶者短期居住権は消滅します。
 なお、建物所有者は配偶者が建物を使用することを妨げてはならないとされており、建物を第三者に売却等したことによって配偶者が建物を使用できなくなった場合は、配偶者に発生した損害について債務不履行に基づく損害賠償をする責任が生じます。

消滅請求

 配偶者が、善管注意義務や用法遵守義務に違反したり、建物所得者に無断で第三者に使用させた場合は、建物所有者から配偶者に対して、配偶者短期居住権の消滅を請求することができます。
 なお、建物の所有者が複数の相続人等によって共有されている場合、保守行為として各取得者が単独で消滅請求をすることができるとされています。

配偶者居住権の成立

 配偶者が配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権は消滅します。配偶者居住権が成立すれば、対抗力がないなど比較的の弱い配偶者短期居住権を成立させる必要性が乏しいという考えによるものです。

まとめ

 配偶者短期居住権は、亡くなった方の所有する建物に居住していた配偶者が,引き続き一定期間,無償で建物に住み続けることができる権利です。配偶者居住権と同様に、令和2年4月1日に施行されました。配偶者短期居住権は、配偶者について当然に発生するもので、被相続人の意向に左右されることがない点では有利と考えられますが、基本的には遺産分割協議が成立した時点で消滅することを念頭におかねばなりません。協議成立後の居住権を確保するために、配偶者が建物の所有権を取得したり配偶者居住権を取得することなどの対策が必要になると思われます。配偶者居住権と同様に遺言書の作成にあたっては、制度の内容を知ることが大切です。当事務所は、相続や遺言に多数の相談実績がありますので、お気軽にお問い合わせください。

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