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持戻し免除の意思表示の推定規定とは何か?新設されたこの規定について解説します。

民法改正により、結婚期間が20年以上の配偶者に対する居住用不動産の生前贈与については、特別受益の持戻し免除が推定されると、特別受益の取扱いを受けなくなりました。今回は、持戻し免除意思表示の推定規定について解説します。

特別受益の持戻し

 特別受益とは、相続人が被相続人から生前にもらっていたお金や金銭的価値のあるもののことをいいます。共同相続人の中に特別受益を受けていた者がいる場合、これを考慮しないで法定相続分どおりに遺産を分けると不公平が生じます。
 このような不公平を是正し、各相続人間の公平を図るために、特別受益分を考慮した上で具体的相続分を計算することを特別受益の持戻しといいます。

持戻し免除の意思表示

 相続が開始すると、遺産は各相続人の相続分に従って承継されるのが原則です。しかし、被相続人の生前に大学の学資等の形で贈与を受けた相続人や、遺贈を受けた相続人がいる一方で、何ももらっていない相続人いるケースでは、単純に遺産を相続分に従って承継するというのは不公平といえます。
 このような不公平を少なくするために相続人に対する生前贈与や遺贈は、相続分を計算するうえで特別受益として、遺産にその特別受益の額を持ち戻したうえで、各相続人の相続分を乗じて計算し、特別受益を受けた相続人の相続分からその特別受益の額を控除して計算することとなっています(民法903条1項)。
 上記の表のように計算することで、生前贈与などを受けていない相続人の遺産相続における取得額を増額させ、相続人間の公平を図っています。
 しかしながら、長年連れ添った夫婦間において、自分の死後に残された配偶者の生活を心配して居住用不動産の遺贈等を行ったような事例においても持戻し計算がされてしまうとすると、残された配偶者の遺産分割における取り分が少なくなってしまうおそれがあります。こうした事態を避けるため、旧法下においても、遺贈等を行った配偶者が「この贈与については持戻し計算をしなくてよい。」というように、持戻し計算を免除する意思表示をしていた場合には、持戻し計算を行わないとすることが可能でした(旧民法903条3項)。しかし、当該規定を知っている当事者は少なく、利用されることは多くはありませんでした。
 そこで、今回の相続法改正において重視されている高齢配偶者を保護する趣旨から、この持戻し免除の意思表示について、推定規定が創設されることになり、要件を満たす遺贈または贈与について、持戻し免除の意思表示があったものとして推定することとなりました(民法903条4項)。

持戻し免除の意思表示の推定規定の要件

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方配偶者から他方配偶者への遺贈または贈与であること
②遺贈または贈与の対象物が居住用建物またはその敷地であること
 長年連れ添った夫婦間で行われる居住用不動産の遺贈等であれば、この要件に該当することが多いと考えられます。先の例では、妻の最終的な取得額は2,000万円ということになり、遺産分割における妻の取り分が減少するのを防ぎつつ、居住用不動産を渡すことがしやすくなったといえます。

持戻し免除の意思表示があったと推定されるために必要な居住要件とは

 持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されるためには、20年以上の婚姻期間があるという要件のほか、遺贈等の対象となった財産が、居住用不動産であることが必要とされています。
 長年連れ添った夫婦が、わざわざ遺贈または贈与により居住用不動産を取得させるということは、相手方配偶者の老後の生活を心配して行われるケースが多いであろうと考えられます。そうであれは、居住用不動産を贈与したことにより、配偶者が他に取得できる遺産が少なくなってしまうのでは、被相続人の意に反することにつながります。そこで居住用不動産であることを要件との1つとして、配偶者に対する遺贈または贈与については、持戻し免除の意思表示が推定されることとされました。

どの時点で居住していればよいのか

 持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されるためには、原則として贈与等の時点で対象となった不動産に居住していることが必要とされます。なお、贈与等の時点で、現に居住していなくても、近く居住用として利用する目的があれば、要件に該当すると考えられます。また、配偶者居住権を遺贈した場合にも、本規定の適用があるとされています。

持戻し免除の意思表示の推定規定の適用を被相続人が望まない場合

 本規定は、被相続人の意思を推定する規定であるため、被相続人が異なる意思の明示的または黙示的に表示していた場合には、適用されません。
 意思表示の方法について法律上の制限はなく、例えば遺言の方法によることなどが必須とされているわけではありません。

持戻し免除と遺留分侵害額請求の関係は

 遺留分を計算するうえでは、まず遺留分算定基礎財産の価額を算出する必要があります。遺留分算定基礎財産の価額は、被相続人が相続開始時に有していた相続財産の価額に、相続開始1年以内に行った贈与などの一定の贈与額を加算して計算することになります。こうした一定の贈与額を加算して計算することから特別受益の計算方法と類似していることから、持戻し免除の意思表示を行った贈与は、遺留分侵害額請求の対象にはならないのではとも考えられますが、あくまでも別の制度であり、持戻し免除の意思表示をした贈与であっても、遺留分侵害額請求の対象外とすることはできません。

まとめ

 法改正がされる前は、長年連れ添った夫婦間で行われる居住用不動産の生前贈与について、遺言で特別受益の持戻しの免除の意思表示をしていない限りは、配偶者への生前贈与が特別受益として取り扱われていました。
 今回の法改正において、結婚期間が20年以上の配偶者に対する居住用不動産の生前贈与については、特別受益の持戻し免除が推定されると、特別受益の取扱いを受けなくなりました。
 そのため、特別受益として遺産分割のときに取得できる遺産がその分減ってしまうという不利益を受けなくなるという点で、配偶者の保護の拡大が図られました。この特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定は、令和元年年7月1日より施行されています。
 このように持戻し免除の意思表示の推定規定が創設されたことにより、この制度への注目が高まることが考えられますが、遺留分侵害額請求との関連性について、誤解されたまま贈与が実行されることのないようにする必要があります。
 今回は、持ち戻し免除について、解説しましたが、持ち戻し免除の意思表示があったと推定されれば、遺産相続の手続きにおいて、特別受益を持ち戻す必要がなくなります。後々トラブルを防止するためには、遺言書に明記しておく必要があります。そのためにも遺言作成には専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続や遺言に多くの実績がありますので、お気軽にご相談ください。
 

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