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家事事件手続法200条3項の規定による遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分とは、どんな制度?

法改正により、要件を満たしている場合、家庭裁判所は、「預貯金の仮分割の仮処分」を決定できるようになりました。仮処分が決定された場合、原則、遺産総額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内で預貯金の仮分割が認められ、金融機関に対して「仮処分に基づく払戻請求」をすることができます。

家事事件手続法200条3項の意義

 仮分割の仮処分は、急迫の危険を防止するため必要があるときという厳格な要件が課されていることから、本制度を用いて相続開始後の資金需要に柔軟に対応することは困難であるとの指摘がありました。
 そこで、家事事件手続法200条3項の規律を設け、預貯金債権について同2項の仮分割の仮処分の要件を緩和し、急迫の危険を防止するため必要があることを要せず、相続人において遺産に属する預貯金債権を行使する必要があり、かつ、これにより他の共同相続人の利益を害しないと認める場合には、預貯金債権の仮分割の仮処分を認めるものとされました。

仮分割の仮処分の要件

 預貯金債権の仮分割の仮処分の要件として、①遺産分割の調停または審判の本案が継続していること。②権利行使の必要性があること。③申立てがあること。④他の共同相続人の利益を害しないことが規定されています。
 具体的な審査の内容については個別具体的な事件を担当する裁判所の判断に委ねられますが、原則として、当該預貯金の額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内で仮分割が認められることになるものと考えられます。

遺産分割の調停または審判の本案が継続していること

 預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てるためには、他の家事事件の保全処分と同様、遺産分割の調停または審判の本案が家庭裁判所に係属していることが必要です。

権利行使の必要性があること

 預貯金債権の仮分割の仮処分は、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該審判または調停の申立てをした者または相手方が行使する必要があると認められるときに許容されるものと定められています。
 相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁は、例示列挙とされており、具体的な必要性の判断については、家庭裁判所の裁量に委ねられています。

申立てがあること

 預貯金債権の仮分割の仮処分は、遺産分割の調停および審判の申立人またはその相手方が申立てる必要があります。

他の共同相続人の利益を害しないこと

 他の共同相続人の利益を害するときは、預貯金債権の仮分割の仮処分は認められません。

仮分割の仮処分の申立て

管轄

 本案の家事審判事件または家事調停事件が係属する家庭裁判所が管轄なります。

必要書類

仮分割の仮処分の申立てにあたっては、次の書類等が必要になるものと考えられます。なお、原本を既に本案において提出済みの場合には、その写しを提出すれば足ります。
①申立書
②戸籍関係書類・・・被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍・除籍・改製原戸籍全部事項証明書等、相続人全員の戸籍全部事項証明書等
③住所証明書・・・相続人全員の住民票または戸籍附票
④遺産関係書類・・・直近の預貯金通帳の写しまたは残高証明書、不動産登記事項証明書、固定資産評価額証明書等
⑤仮分割の仮処分の必要性を裏付ける資料
 生活費の支払のためであれば、申立人及び同居家族の収入と支出を示す書類(源泉徴収票、給与明細、確定申告書、家計収支表など)、相続債務の支払いのためであれば、申立人及び同居家族の収入と支出に関する資料に加えて、債務を証する資料といったように、仮払いを必要とする費目及びその金額を裏付ける資料等の提出が必要になります。

申立費用

 1000円分の収入印紙と連絡のための郵券が必要となります。

審判手続(審判を受ける者となるべき者の陳述)

 預貯金債権の仮分割の仮処分は、仮の地位を定める仮処分という法的性質を有することから、原則として、審判を受ける者となるべき者の陳述を聴かなければ命ずることができません。
 このため、家庭裁判所が仮分割の仮処分の求める申立てを受けた場合には、尋問期日を開いて陳述を聴取したり、照会書を送付して陳述を聴取するなどの手続を経たうえで審判する必要があります。したがって、仮分割の仮処分の審判を得るまでには、相当の日数を要することになるものと考えられます。

仮分割の仮処分の効果

 家庭裁判所は、仮分割の仮処分として、預貯金債権を申立人に仮に取得させることができます。
 この制度に基づく預貯金債権の分割はあくまでも仮のものにすぎず、申立人に預貯金の一部が給付されたとしても、本案においては原則としてその事実を考慮すべきではなく、改めて仮分割された預貯金債権を含めて遺産分割の調停または審判をすることになります。

施行日及び経過措置

 家事事件手続法200条3項の規定は、令和元年7月1日から施行されています。なお、相続開始が施行日前であっても、明文の規定こそありませんが、当然に新法が適用されるものとされています。

まとめ

 民法909条の2に規定される遺産分割前における預貯金の払戻し制度は、裁判所の判断を経ずに当然に預貯金の払戻しを認める制度であることから、喫緊の資金需要に対して迅速に対応することができる反面、相続人間の公平な遺産分割の実現を阻害しないよう一定の限度額が定められています。したがって、その限度額を超える比較的大口の資金需要がある場合には、仮分割の仮処分の制度を活用することが想定されます。
 ただし、仮分割の仮処分を申し立てるには、その前提として、遺産分割の調停または審判の係属が必要となります。また、その審理手続のなかでは、原則として、審判を受ける者となるべき者の陳述聴取の手続がなされることから、実際に審判を得られるまでには、相当の日数を要することが考えられます。
 なお、要件として遺産分割の調停または審判の手続きを利用している必要があるため、実際に利用する場合は、司法書士や弁護士に相談をした方が良いと思います。
当事務所は、相続や遺言に多くの実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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