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売買契約上の地位の管理や承継はどうしたら良いのでしょうか?

売買契約の履行が未了のままで相続が発生した場合に、その地位の管理や承継に当たってどのような点に注意すべきでしょうか?今回はこのことについて解説します。

売買契約内容の調査

相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身専属権であるものを除き、一切の権利義務を承継します。したがって、相続人は、被相続人が有していた売買契約上の地位を承継します。
被相続人が売買契約上の地位を有していたか否かの調査は、売買契約書や請求書等の資料、関係者からの聴き取り、在庫、仕入台帳、元帳、領収証、使用していたメール等を確認することで行います。これらにより、売買契約の内容を調査して、当該売買契約の目的物及びその引渡時期、売買代金額及びその弁済時期等、契約内容を確認します。

売主の地位の場合の管理行為

相続人は、相続の承認若しくは放棄するまでの間、相続財産を、自己の財産と同一の注意義務をもって管理する義務を負います。また、各相続人は、遺産分割協議が成立するまでの間、相続財産の保存行為を行うことができます。
被相続人が売主の地位にあった場合の共同相続人等は、売買目的物の引渡義務を負うことから、履行期の到来まで、売買目的物を管理する義務を負います。また、売買 目的物の修理・修繕、不実の登記名義人に対する抹消登記請求、妨害排除請求などの第三者に対する物権的請求権の行使などを保存行為として行うことができます。また、履行期が到来した債務の履行は保存行為に当たると解されていますので、買主に対し、引渡債務の期限が到来した売買目的物を引き渡すことができます。
遺言執行者の場合も同様の管理を行うことが考えられます。

買主の地位の場合の管理行為

被相続人が買主の地位にあった場合の共同相続人等も、履行期の到来した債務の履行を行うことができますので、売買代金支払期限が到来した場合には、管理行為として、売主に対して売買代金を支払って売買目的物の引渡しを受けることができます。また、管理行為として、引渡しを受けた売買目的物を修理・修繕すること、当該目的物が腐敗しやすい物であったときに換価すること、物権的請求権の行使などを保存行為として行うことができます。遺言執行者の場合も同様の管理を行うことが考えられます。

相続財産管理人における管理行為

相続財産管理人の業務は、基本的に相続財産の維持管理です。したがって、被相続人が売主、買主いずれの場合であっても、相続財産管理人は、被相続人の地位に基づき、管理・保存行為を行うのが原則です。
売買契約によっては、相続財産管理人において、契約上の履行期が到来する前に、売買契約に基づく履行を行う場合があります。この場合、相続財産管理人が、売買契約の履行につき、家庭裁判所による権限外行為許可審判を得る必要があります。
例えば、被相続人が、売主として、相続発生前に売買契約を締結したものの、死亡までの間に、売買目的物を仕入れていなかった等、相続財産管理人が当該売買契約に基づき履行を行う必要がある場合には、目的物の仕入れ等、相続財産管理人の業務の範囲を超える行為が必要となることもあります。目的物の仕入れ等が容易である場合には、家庭裁判所の権限外行為許可審判を得て仕入れをした上で売却することも考えられます。他方で、相続財産管理人において債務の履行が難しい場合には、売主としての地位を第三者に譲渡したり、買主と協議の上で当該売買契約を合意解約する等の対応を検討することになります。なお、売主としての地位の譲渡や合意解約等を行うことについて、家庭裁判所による権限外行為許可審判を得ることを要します。いずれの場合についても相続財産管理人として難しい判断を求められることになりますので、家庭裁判所とよく協議する必要があります。

被相続人が売主であった場合

相続人は、被相続人が締結した売買契約に基づき、売買目的物の引渡義務、売買代金請求権を承継します。なお、各種の契約不適合責任等の売主の義務についても承継することになります。
売主たる地位を承継した相続人が複数いる場合、売買目的物引渡義務は不可分債務として、各相続人が共同して履行する必要がある一方、売買代金請求権は可分債権であり、相続分に応じて当然分割されるため、各相続人は、自己の相続分の限度で、買主に対し、売買代金の請求ができます。なお、最高裁は、従来「可分債権」として取り扱われてきた財産権のうち預貯金以外の債権については何ら判断していないと解されていますので、同決定の射程が及ばず、各相続人が自身の相続分に応じて代金請求権を行使できると考えられます。
なお、売買契約の目的物が不動産の場合には、相続登記手続を行った上で、売買による所有権移転登記手続を行うことになります。

被相続人が買主であった場合

相続人は、被相続人が締結した売買契約に基づき、売買代金支払義務、目的物引渡請求権を承継します。
相続人が複数いる場合、買主たる地位に基づき承継した売買支払義務は可分債務であり、相続分に応じて当然分割される一方、目的物引渡請求権は、不可分債権であるため、各相続人が共同行使する必要があります。なお、この場合、売主は、各相続人に対し、同時履行の抗弁権を行使し、相続人全員による売買代金支払義務の履行がなされない限り、売買目的物引渡しの履行を拒むことができます。

契約における相続人の固有の地位と被相続人の契約上の地位の承継の関係性

相続人が、被相続人の契約上の地位を承継したとしても、これにより当該契約に関する相続人固有の地位が、当然に混同して消滅するものではなく、相続人は、契約上の地位を承継後も、元来保有していた自身固有の権利を行使できます。したがって、相続人は、承継した被相続人の契約上の地位に基づく権利義務を行使できる一方、自身が承継前から有していた固有の地位に基づく権利行使や主張を行うことができます。

まとめ

(1)第売買契約の内容を確認・調査する。
(2)売主の地位の場合、売買目的物の保存、目的物性質・内容に応じた管理行為を行う。
(3)買主の地位の場合、契約内容に応じた管理行為を行う。
(4)相続財産管理人の場合、売買契約の履行の可否を検討し、履行する行為によっては権限外行為許可審判を得る必要がある。
(5)売主たる地位を承継した相続人は、目的物を引き渡し、売買代金を受領する。
(6)買主たる地位を承継した相続人は、目的物の引渡しを受け、売買代金を支払う。
(7)被相続人の契約上の地位を承継しても、相続人固有の契約上の地位は併存する。
今回は、売買契約上の地位の管理や承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、相続に関する相談や手続について多数の実績がありますので、お気軽にご相談ください。

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