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事前対策のない株式会社の事業承継はどうすればようでしょうか?

事前対策のない株式会社の事業承継はどうすればようでしょうか?今回はこのことについて解説します。

事前対策のない株式会社の事業承継

(説例)株式会社の100 %株主兼代表者が死亡しました。相続人として、配偶者と3 人の子がいます。生前、代表者は、会社に工場用の土地、建物を負貸し、これら不動産は会社の借入金の担保となっています。また、代表者は、会社に6 , 000 万円の貸付けをしています。代表者の相続手続を進めるに当たりどのような点に気をつければよいでしょうか。
1、事前対策のない株式会社の事業承継を行う場合、ますは株式をはじめとする事業用資産を承継させる後継者を選定する。
2、遺産分割が成立するまでの法律関係については、資産ごとに様々な問題点があり、会社の経営に影響があるため留意する。
3,遺産分割が成立するまでに長期化する可能性があることに留意する。
当該株式会社としては、株式等を分散させないための対策として、買取資金の調達、相続人等に売渡請求制度、特別支配株主による株式等の売渡請求制度等の活用を検討する。

後継者の選定

事前対策のない株式会社の事業承継を行うこととなる場合には、通常、株式をはじめとする事業用資産を承継させる後継者も定まっていないことが多いため、まずは、後継者となる者を選定する必要があります。
後継者の選定に当たっては、現経営者である被相続人の経営理念を共有しているかどうか、現場や経営が好きかどうか、会社とともに金銭的負担を負う覚悟かあるかどうか、計数(貸借対照表、損益計算書、税金等)に明るいかどうか、社員・役員らとのコミュニケーション能力があるかどうかを踏まえて、判断することか必要です。
本設例でも、配偶者及び3人の子との協議や現経営者である被相続人の生前の意思を踏まえて、後継者となるべき者を選定します。
事業承継を行うこと)、③M&A (事業を他社に売却するなどして第三者に承継すること)の3種類の方法がありますか、設例では、親族内承継として、配偶者が後継者となる事例を検討します。

遺産分割が成立するまでの法律関係

株式について

現経営者が、遺言を作成することなく死亡した場合、相続人である配偶者及び3人の子の法定相続分は、配偶者が2分の1、子はそれぞれ6分の1ずっとなります。
仮に配偶者が後継者になるとしても、遺産分割協議が成立するまでは、配偶者が株式を単独所有することができず、配偶者及び3人の子が法定相続分に従って準共有することになります。
準共有状態にある株式については、共有者が当該株式についての権利を行使する者を1人定め、会社に対し、その者の氏名を通知する必要があります共有者による権利行使者の決定は、通常、共有物の管理行為として、持分価格に従いその過半数でなされますので、株式共有の場合も、株式持分の過半数でもって権利行使者を定める必要があります。なお、会社法106 条ただし書には、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と規定されていますが、会社が権利行使について同意をしても、権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ、適法とはならないとされています。
事業承継には、大きく分けて、①親族内承継
(オーナー一族の内部で事業承継を行うこと)、②企業内承継
(従業員等に事業承継したり、外部から人材を招聘します)。設例において、配偶者の共有持分は2分の1ですので、自らを権利行使者とするためには、子3人のうちの1人の協力が必要です。過半数により権利行使者となった場合には、相続株式全部について権利行使することができます。
もし、子が3人とも配偶者を権利行使者とすることに反対していれば、配偶者は、準共有株式について権利を行使することができず、その後の遺産分割協議により過半数の株式を取得するまでの間、会社の経営権を失うことになりますので、留意が必要です。

賃貸不動産について

相続人ら(配偶者及び3人の子ら)は、法定相続分に従って、会社に提供している土地建物を共有し、賃貸借契約上の賃貸人たる地位若しくは使用貸借契約上の貸主の地位を準共有
することになります。
所有する不動産が会社の借入金の担保となっている場合、その担保価値を維持する必要がありますが、当該不動産が老朽化している場合、その現状を維持する程度の修繕を施すのであれば、保存行為として、後継者が単独で行うことができるので、特に問題はありません。
しかし、例えば会社の事業拡大のため、建物の増築や改築が必要となる場合、当該行為は保存行為に当たらず、共有者の持分の価格の過半数で決する必要があります。
設例では、後継者となる配偶者は、その後の遺産分割協議により過半数の所有権を取得するまでの間は2分の1しか共有持分を有しません。したがって、その後の遣産分割協議により過半数の所有権を取得するまでの間は、建物に増築や改築をするためには、子と協議し、いずれか1人の賛成を得る必要があり、会社の事業活動の進展に合わせた迅速な対応ができなくなるおそれがありますので、留意が必要です。
また、賃貸人たる地位若しくは貸主の地位も、相続人ら(配偶者及び3人の子ら) が、法定相続分に従って準共有することになります。賃貸借契約や使用貸借契約の解除も、管理行為として、共有者の持分の過半数で決しますので、仮に配偶者が、会社の事業状況上、契約の継続は不要と考えていたとしても、その後の遺産分割協議により過半数の所有権を取得するまでの間は、契約の解除に当たっては、子と協議し、いずれか1人の賛成を得る必要があり、会社の事業活動の状況に応じた迅速な対応ができなくなるおそれがありますので、留意が必要です。

貸付金について

会社に対する貸付金債権は、金銭債権ですので、経営者の相続開始により、法定相続分に従って当然に分割され、各共同相続人が法定相続分に従って単独で承継します。すなわち、本事例では、配偶者は3 , 000万円、3人の子は1 , 000万円ずつの貸金債権を承継することになります。
仮に、現経営者と会社との間で金銭消費貸借契約が作成され、貸付金の返済方法か 明確に定められていれば、会社は、当該返済方法に従って返済すればよく、特に問題はありません。
しかしながら、中小企業における会社と経営者との間の金銭の貸借においては、契約書を作成していないことや、返済方法を明確に定めていない例が多く見られます。そして、返済期限のない金銭消費貸借契約においては、貸主は、相当の期間を定めて催告することができ、当該期間が経過した時に返済期限が到来することになります。
したがって、仮に、現経営者と会社との間で金銭消費貸借契約を作成せず、あるいは返済方法を定めていなかった場合は、後継者ではない相続人が、会社に対し、自らが有する貸金債権について、相当の期間を定めて返還を催告すると、会社としては、予期せぬ時期に貸付金の返還を余儀なくされ、資金繰りに支障が生じるおそれ
があるので留意が必要です。

遺産分割の問題点

現経営者の遺産の帰属は、最終的には相続人の遺産分割により確定します。
遺産分割は、まずは相続人間の協議により行いますが、後継者となる配偶者としては、会社の安定した経営のため現経営者の有していた事業用資産の全部取得を希望することが多いと思われます。
しかしながら、会社の事業用資産は、現経営者の遺産の大部分を占めることが多く、その場合、その大部分を1人の相続人が取得することについて他の相続人が難色を示し、遺産分割協議が長期化
するおそれがあります。
共同相続人間の協議が調わないときは、各共同相続人は、家庭裁判所に遺産分割を請求することができ、調停手続の中で、裁判所の関与のもとで協議が行われます。それでも共同相続人間で合意ができなかった場合には、審判手続に移行し、家庭裁判所の判断により遺産分割がなされます。こうした手続に要する期間は、かなり長期間となる可能性があることに留意が必要です。
しかも、共同相続人間の協議ないし調停により遺産分割を成立させる場合には、法定相続分ないし特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分にかかわらず、自由に分割内容を決めることができますが、家庭裁判所の審判により遺産分割をする場合には、民法906条の遺産の分割の基準に従う必要があるため、必ずしも、特定の相続人に株式等を集中させるような内容の審判がなされるわけではありません。
遺産に属する資産について、遺産分割により、一旦相続人間で共有状態が生じた場合には、その後、個々の資産について、共有関係を解消するためには、共有物分割の手続を取る必要があり、さらに紛争が長期化する可能性がありますので、この点でも留意が必要です。

株式等を分散させないための事後の対策

買取資金等の調達

遺産分割の結果、後継者となる者が、何らの負担無しに株式等の事業用資産を取得できれば問題ありませんが、後継者とならない相続人の理解、納得を得るため、一定の金銭負担(代償金支払)をせざるを得ないことが考えられます。
後継者に手元資金が不足している場合、借入れによる資金調達を行うことになりますが、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律では、金融支援についての特例を設けており、これを活用することが考えられます。
具体的には、後継者が他の株主から自社株式や事業用資産を買い取るため等の資金調達を行う際の支援として、株式会社日本政策金融公庫法等の特例が定められており、日本政策金融公庫等から低金利で融資を受けることが可能です。また、会社が後継者以外の相続人から自社株式を購入して、相対的に後継者の議決権割合を上昇させる方法の支援として、中小企業信用保険法の特例が定められており、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠の保証を利用することも可能になります。

相続人等に対する売渡請求

会社は、定款で定めることにより、相続その他の一般承継により自社株式を取得した者に対し、その取得した自社株式を会社に売り渡すことを請求できます。したがって、定款にこのような定めがあれば、後継者以外の相続人から自社株式を取得して後継者の経営基盤の安定化を図ることができます。
定款の規定例は以下のとおりです。
第〇条(相続人等に対する株式の売渡請求)
会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる。
会社が株主に売渡請求を行うに当たっては、以下の点に留意が必要です。
①請求制限:相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経て請求する必要があります。
②売買価格:株式の売買価格は当事者間の協議によりますが、協議が調わない場合は、裁判所に売買価格決定の申立てをする必要があります。
③財源規制:分配可能額の範囲内でのみ株式の買取りを行うことができます。

特別支配株主による株式等売渡請求

株式会社の総株主の議決権の90 %以上を有する後継者は、他の株主の全員に対し、その保有するその会社の株式の全部を自己に売り渡すことを請求することができます。これにより、後継者は、100 %に近い自社株式を保有することになりますので、経営の安定化を図ることができます。
本件でも、配偶者が自らも株式を所有しており、被相続人所有株式の2分の1を加えると90 %を超える場合や、遺産分割の結果、所有株式が90 %を超えることになった場合には、経営の安定化のため、この制度により株式を所有する相続人に対し売渡請求をすることも考えられます。

まとめ

事前対策のない株式会社の事業承継について。留意すべきことは次のとおりです。
(1)経営者である被相続人の生前の意思を踏まえて、後継者となるべき者を選定します。
(2)遺産分割協議により過半数の株式を取得するまでの間、会社の経営権を失うことになり、留意が必要です。
(3)賃貸不動産は、法定相続分に従って土地建物を共有し、貸主の地位も準共有することになります。
(4)貸付金の返還を催告すると、会社としては、予期せぬ時期に貸付金の返還を余儀なくされ、資金繰りに支障が生じるおそれがある。
(5)共有関係を解消するためには、共有物分割の手続を取る必要があり、紛争が長期化する可能性がある。
(6)中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律では、金融支援の特例がある。
(7)定款で定めることにより、相続その他の一般承継により自社株式を取得した者に対し、その取得した自社株式を会社に売り渡すことを請求できます。
今回は、事前対策のない株式会社の事業承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、事業承継に関する相談もお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。

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