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遺言代用信託の活用について

相続発生前の対策として遺言代用信託の活用について解説します。

今回の事例

甲と乙には、子の丙と丁がおり2人とも成人し、別居しています。乙は、認知症を患っています。丙は、甲の気づかないところで、乙 の所持金を持ち出しているようです。甲が死亡した場合、認知症の乙に財産を残したいのですが、このままでは丙が使い込むことは明らかです。そこで、丁に乙に残す財産を託して、甲が死亡した場合に、丁から乙に生活費や医療費を渡してほしいと考えています。その対策として遺言代用信託の活用した場合の効果とリスク及び注意点について解説します。

効果とリスク及び注意点

効果

(1)遺言のような厳格な様式が不要であり、契約締結後にすく効力を発するため、生前に確実な財産分与を実行できます。
(2)遺言と異なり、相続財産の帰属以外にも様々な事柄を定めておくことができます。遺言代用信託は、あくまでも契約であることから、遺言事項以外の事項についても効果を生じさせることができます。たとえば、「受益者の要求があった場合に、生活費として相当な金額を支払う」など、条件をつけて財産を渡すことができます。
(3)委託者の死亡時に預金口座が閉鎖されません。相続財産である預金は、相続発生時には凍結されてしまいます。しかし、遺言代用信託をしておくと、委託者が死亡した時点で、指定された第三者に受益権等が移転するので、委託者の口座が閉鎖されず、受益者が預金を受け取ることができます。
(4)信託会社等を受託者にすることで、悪意の第三者に財産を詐取されるリスクを低減できます。本人が認知症になってしまい、判断能力が低下した場合、第三者に財産を詐取される可能性があります。しかし、遺言代用信託をしておくと、契約時点で、委託者の財産は、受託者の名義になって管理されるので、委託者は財産を勝手に処分することができず、第三者に財産を詐取されるおそれは低いといえます。
(5)委託者が受益者の変更や信託契約の終了などを自由に行えます。

リスク

(1)信託財産がほかの相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求の対象になってしまいます。

注意点

(1)信託報酬などのコストがかかります。遺言代用信託において、親族などを受託者とした場合は無報酬の場合が多いですが、受託者を信託会社にした場合、信託期間が終了するまで、報酬を払い続けなければならない可能性があります。
(2)受益の移動時には相続税や贈与税がかかります。

遺言代用信託

遺言代用信託の内容

遺言代用信託とは、生前に自己(委託者)を受益者として信託契約の効力を発生させ、自己の死亡時に、指定した第三者に受益権等を取得させる信託契約のことをいいます。
遺言代用信託として、①委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託、②委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託の2種類があります。

遺言代用信託の効果

遺言代用信託により、信託契約の締結時より信託契約の効力が生じます。これにより、受託者に財産が移転し、受益者が死亡した際に、指定された第三者に受益権等が移転します。
自己の死亡時における財産の処分を遺言によって行うことと同様の効果を得ることができます。

受益者変更権

委託者死亡後の受益者は、信託契約に別段の定めがない限り、委託者が死亡するまでは、受益者としての権利及び義務は一切有していません。

遺言信託との違い

遺言信託

遺言信託とは、特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をいいます。

遺言信託との比較

(1)遺言信託は遺言の要件を満たさないと無効になりますが、遺言代用信託は契約であり、遺言の方式による必要はありません。
(2)遺言信託は遺言によりなされるものであるため、被相続人の死亡後に初めて効力を有することになりますが、受託者として指定した者が就任を拒否する可能性があります。これに対して、遺言代用信託は、委託者が生前に受託者と信託契約を締結し、契約締結時点で既に受託者として就任していることから、受託者が就任拒否されることはありません。
(3)遺言信託は、遺言執行が必要であり、時間を要します。これに対し、遺言代用信託は、遺言執行は不要であり、委託者死亡後の受益者は、早期に確実に信託財産からの利益を得ることができます。
(4)遺言代用信託は、生前行為によって自己の死亡後における財産の分配を図るという点で遺贈や死因贈与と同じ機能を有していることから、遺言信託と同様に遺留分侵害額請求の対象になりますので、他の相続人に遺留分以上の財産を残さないときは遺留分侵害額請求が発生するリスクがあります。

税金について

信託では、受託者が、受益者のために信託財産を管理しているので、受益者が信託財産を実質的に所有していることになります。そこで、税法上受益者が信託財産の所有者とみなされ、課税されます。
もっとも、遺言代用信託では、信託設定時において委託者と受益者が同一であることから、税法上財産の譲渡が生じず、課税されません。委託者の死亡後、受益者は委託者から受益権を遺贈されたものとみなされ、相続税の対象となります。

まとめ

今回の事例の解決策としては、「遺言信託」と「遺言代用信託」が考えられます。
遺言信託として、甲の財産を信託財産、乙を受益者、丁を受託者とし、乙の安定した生活の支援を目的として、甲が死亡した場合に、丁が信託財産の運用管理を行い、乙に生活費及び医療費の給付を行うことを内容とする遺言を作成することが考えられます。
しかし、遺言に不備があった場合、遺言が無効になってしまうおそれがあります。
また、遺言は甲が死亡した時点で効力を生じるものであり、丁が関わる時点で、受託者の就任を拒否すると、乙の安定した生活の支援という目的を実現することができなくなってしまいます。
そこで、生前に丁との間で、甲の財産を信託財産、甲を受益者、丁を受託者、甲が死亡した場合の受益者を乙とし、甲が死亡した場合に、受託者である丁が乙に生活費及び医療費の給付を行うことを内容とする信託契約(遺言代用信託)をすることが考えられます。
生前に丁と契約をすることで、甲が死亡する前に信託の効力を生じさせることができ、乙の安定した生活の支援という目的を確実に実行することができます。
今回は、相続発生前の対策として遺言代用信託の活用について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。

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