
農地を遺贈するときに農地法の許可は必要か不要かについて、内縁関係を例に解説します。
今回の事例

乙は甲と長年農業を従事してきましたが、最近甲が亡くなりました。甲と乙は入籍していないため、甲は乙に農地を遺贈する旨を記載した遺言書を作成していました。乙は農地法の許可を受けなければならないのでしょうか。
内縁関係について
長年夫婦生活をしていても、入籍を していなければ、法律上は「配偶者」ではなく「内縁関係」と評価されます。「配偶者」であれば法定相続人ですから、農地法3条1項12号の適用を受けるため、農地を相続により取得しても農地法の許可は不要となります。乙は亡くなった甲とは「内縁関係」にあったわけで、「配偶者」ではなく法定相続人ではありませんから、農地法3条1項12号の適用を受けることはできません。しかし、甲が残された農地を遺贈する旨の遺言書が包括遺贈であった場合には、農地法3条1項16号とこれにもとづく農地法施行規則15条5号の適用があるため、乙が農地法の許可を受ける必要はないと考えられます。
遺贈について

遺言者は、包括または特定の名義で、その財産の全部または一部を処分することができます。遺贈という制度は、人は生前において自由に財産を処分できたのだから、その延長として、死後の遺産のゆくえを決定させようという考え方から認められたものです。遺贈は財産上の利益を無償で与えるわけですから、贈与と似ています。しかし、贈与は贈与する側と贈与を受ける側の契約ですから贈与する側が一方的になしうるのではなく、贈与を受ける側との同意が必要となります。死因贈与は生前処分といえます。これに対して、遺贈とは遺贈者の単独行為であり、遺贈を受ける側の同意が必要ではありません。そして、遺贈は贈与とは異なり死後処分になります。
包括遺贈
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。包括遺贈とは、遺産の全部または一部を一定の割合で示してする遺贈をいいます。遺贈を受ける側を「受遺者」といいますが、受遺者は遺産の全部または一部を割合として取得するから、受遺者の法的な地位は相続人と類似しています。そこで民法上も包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するとされています。そのため、農地法上も遺贈が包括遺贈である場合には農地法3条の許可を受けることなく農地の取得が可能になります。
特定遺贈
特定遺贈とは、特定の具体的な財産的利益の遺贈をいいます。平成24年10月26日の大阪高等裁判所の判決を受けて「相続人に対する特定遺贈」については農業委員会の許可は不要とされました。しかし、内縁の妻は「相続人」ではないとされています。そのため、亡くなった甲の遺言の内容が特定遺贈の場合は、相続が開始し、遺言の内容が効力を生じた場合でも、農地法に定める許可を得るまでは遺贈を受けた農地の所有権を取得することはできず、法定相続人に対し、農地法に定める許可を得て所有権を移転することを請求できるにとどまると考えられます。
農地について特定遺贈を受けた内縁の妻は、農地の所有権を取得するためには、農地法3条の許可を得る必要があると考えられます。この許可申請については、農地の所有権を移転しようとする当事者が連署して行うことが原則ですが、権利の移動が遺贈のような単独行為による場合については、権利者が単独で行うことができるとされています。したがって、乙が単独で申請手続をすることが可能です。もっとも、内縁の妻に農地を取得する適格がない場合には、遺贈があっても農地を取得することはできないことはいうまでもありません。
農地について特定遺贈を受けた内縁の妻は、農地の所有権を取得するためには、農地法3条の許可を得る必要があると考えられます。この許可申請については、農地の所有権を移転しようとする当事者が連署して行うことが原則ですが、権利の移動が遺贈のような単独行為による場合については、権利者が単独で行うことができるとされています。したがって、乙が単独で申請手続をすることが可能です。もっとも、内縁の妻に農地を取得する適格がない場合には、遺贈があっても農地を取得することはできないことはいうまでもありません。
まとめ

(1)農地を相続により取得しても農地法の許可は不要。
(2)遺贈は遺贈者の単独行為のため遺贈を受ける側の同意は不要。
(3)包括遺贈は農地法の許可を受けなくても農地の取得が可能。
(4)相続人に対する特定遺贈は農業委員会の許可は不要。
(5)特定遺贈を受けた内縁の妻は、農地の所有権を取得するためには、農地法の許可を得る必要がある。
今回は、農地を遺贈するときに農地法の許可は必要か不要かについて、内縁関係を例に解説しました。当事務所は、農地の相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
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(2)遺贈は遺贈者の単独行為のため遺贈を受ける側の同意は不要。
(3)包括遺贈は農地法の許可を受けなくても農地の取得が可能。
(4)相続人に対する特定遺贈は農業委員会の許可は不要。
(5)特定遺贈を受けた内縁の妻は、農地の所有権を取得するためには、農地法の許可を得る必要がある。
今回は、農地を遺贈するときに農地法の許可は必要か不要かについて、内縁関係を例に解説しました。当事務所は、農地の相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。
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