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相続発生前の対策として定期借地権の前受方式の活用について

相続発生前の対策として定期借地権の前受方式の活用について解説します。

今回の事例

昨年1月に甲が亡くなり、相続人は乙と丙の2人です。甲の財産の中には、自宅不動産のほかに遊休土地があったのですが、預貯金などはほとんどありませんでした。不動産の評価額が高く、相続税を納税する必要があるのですが、現金がないので納税資金を確保するのが難しくて困っています。ただし、乙は、先祖から譲り受けた土地なので、売却はしたくないと言っています。このような場合、相続した土地に定期借地権を設定し、定期借地権設定契約において前受方式を採用する方法があります。今回は、定期借地権の前受方式の活用について効果とリスク及び注意点について解説します。

効果とリスク及び注意点

効果

(1)地代の全部または一部を一括して得ておくことで、所有権を保持したまま、納税資金を確保することができます。土地を賃貸して定期借地権を設定し、地代の前受方式を採用する場合、賃貸する側である借地権設定者は契約期間中の地代を借地権設定契約締結時に一括で受領することができます。そのため、まとまった資金を得ることで、相続税の納税資金を準備することが可能になります。
(2)所得税について、一時金を分割して収益計上することができます。税務上、借地権設定者が前受方式で一括して受け取る地代は、前受収益」として計上し、期間に応じて分割して収益計上する取扱いが認められています。そのため、所得税の負担を軽減することができます。
(3)借地権者は、前払地代を支払うことにより保証金などを支払う必要性がなくなるなどのメリットが考えられます。借地する側である借地権者にとっては、定期借地権の前受方式を採用する場合、借地権設定契約締結時に契約期間中の地代を一括して支払わなければなりません。もっとも、前払地代を支払うことで、通常の借地権設定契約締結時に支払わなければならない保証金を支払う必要性がなくなれば、借地権者にもメリットがあると考えられます。

リスク

(1)中途解約時に未経過の地代を返還する場合、違約金と未経過分相当額が同じであれば一時金は権利金として課税されます。借地権設定契約に中途解約時には未経過の地代を違約金として返還する旨の定めがある場合等で、中途解約で返還する未経過相当額と違約金が同じであれば、従来の権利金と効果が変わらないことになります。そのため、このような場合は、借地権設定契約締結時に授受された金銭が前払地代ではなく権利金であったとして、課税されることになります。

注意点

(1)税法上、前払地代であると認められる条件(明確な契約書、取引実態が前受けの状態、地代が適正に算定されている。)を満たさなくてはならない。税務上、借地権設定契約締結時に授受される金銭が、権利金・保証金ではなく、地代の前受方式であると認められるためには要件を満たす必要があります。

定期借地権

一般定期借地権

一般定期借地権とは、当事者が借地権の存続期間を50年以上として借地権設定契約を締結する場合をいいます。
普通借地権の場合と異なり、借地権設定契約で定めた契約期間が満了した場合には契約が更新されずに終了すること、借地上の建物の築造による存続期間の延長がないこと及び期間満了時に借地権者が建物買取請求をしないとすることを定めることができます。ただし、これらの特約は、契約期間が長期間であるので契約条項を明確にして後日の紛争を防ぐという観点から、公正証書等の書面によって定める必要があります。なお、これらの特約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなされます。

事業用定期借地権

事業用定期借地権とは、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権のことで、①存続期間を30年以上50年未満として借地権設定契約を締結する場合、②存続期間を10年以上30年未満として借地権設定契約を締結する場合があります。①の場合は、一般定期借地権と同様に、契約の更新がないこと、借地上の建物の築造による存続期間の延長がないこと及び期間満了時に借地権者が建物買取請求をしないとすることを定めることができます。他方、②の場合は、借地借家法3条(借地権の存続期間)、4条(借地権の更新後の期間)、5条(借地契約の更新請求等)、6条(借地契約の更新拒絶の要件)、7条 (建物の再築による借地権の期間の延長)、8条(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)、13条(建物買取請求権)、18条(借地契約の更新後の建物の再築の許可) の規定が適用されません。ただし、いずれの場合も、必ず公正証書により事業用借地権設定契約を締結する必要があります。

建物譲渡特約付定期借地権

建物譲渡特約付借地権とは、借地権設定契約を締結する場合に、借地権を消滅させるため、借地権設定後30年以上経過した時点で、借地権の目的である借地上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する特約を定める場合をいいます。なお、用途制限はありません。

前受方式

定期借地権の地代については、設定時に契約期間分の地代を一括で受領することを定める方式(前受方式)があります。借地設定者にとっては、一括でまとまった資金を確保することが可能になり、保証金や権利金で受け取るよりも、税務上のメリットもあります。また、借地権者にとっても、前払地代を支払うことで、将来返還されるかどうかわからない保証金を支払う必要がなくなれば、メリットがあります。

税法上、前受方式が認められるための条件

税務上、地代の前受方式であると認められるためには、①定期借地権設定契約書において、借地権設定者に支払われる一時金が前払地代であり、それが契約期間にわたって又は契約期間のうち最初の一定期間について、賃料の一部又は全部に均等に充当されていることが定められていること、②取引の実態も当該契約に沿うものであること、③地代が適正に算定されていることが要件とされています。また、中途解約時において未経過の地代を返還する場合、それが違約金と同じであれば、従来の権利金と効果が変わらないため、前払地代ではなく権利金を受領したものとして課税されることになります。

まとめ

相続財産の中に所有する土地がある場合、これを活用して相続税の納税資金等を確保することが考えられます。所有土地を売却せずに保持し続けたい場合には、定期借地権を設定して地代の前受方式をとることで、契約期間中の地代を借地権設定契約締結時に一括で受領することが可能です。この前受方式によって受け取った地代を相続税の納税等に充てることができます。もっとも、この前受方式には、実際に借地人と合意できるかどうか、税法上認められるための条件を満たしているかどうかなど注意すべき点があることも留意する必要があります。
今回の事例では、遊休土地があるので、これに定期借地権設定契約を締結し、借地人から地代を前受方式で受領することによって、納税資金を確保し、所得税の負担を軽減することが可能になります。この場合、税務上、地代の前受方式であることが認められるように契約書の書式と実態を整えることが重要です。
ただし、土地の借主となってくれる人が見つかるかどうか、借主が前受方式に理解を示して一括で地代を支払うかどうかなどの問題はあります。
今回は、相続発生前の対策として定期借地権の前受方式の活用について解説しました。当事務所は、相続や遺言について、多数の実績がありますのでお気軽にご相談ください。

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