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生前対策が採られている事業承継は、どのような点に注意すべきでしょうか?

被相続人が株式会社の100 %株主兼代表者です。生前に会社の事業を相続人である親族に円滑に承継するための方法を採って亡くなりましたが、相続人や遺言執行者においてどのような点に注意すべきでしょうか?今回はこのことについて解説します。

事業承継の生前対策

会社において、事業承継後の後継者が安定した経営基盤を確保するには、少なくとも議決権のある株式の過半数、できれば100 %の株式を承継させたいところです。
しかしながら、事前対策をせずに、相続人である親族を後継者とする事業承継をした場合、すなわち、現経営者の死亡により複数の相続人に対して株式の承継があった場合、遺産分割による相続人全員の協議が調わない限り、後継者単独に会社の株式を全て承継させることはできません。また、後継者がいきなり事業を承継しても経営は上手くいきませんので、後継者に対して事前に事業に関する教育等をしておくことが必要ですが、それにはどうしても時間がかかります。
そのため、現経営者として、後継者に対して実際に事業を承継する相当前の段階から、計画的に、事業承継の準備に取り組むことが必要とされています。この点、中小企業庁による「事業承継ガイドライン」でも、「後継者の育成期間・・・も含めれば、事業承継の準備には5年~10年程度を要することから、平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると、60歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要がある」とされており、ガイドラインに従った事前準備が行われるケースも増えています。


事業承継の方法

事業承継の方法としては、大きく分けて、①親族内承継、②役員・従業員承継、③ 社外への引継ぎ(M&A等)の3つに分類されます。
①の親族内承継は、現経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法で、一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できるといったメリットがあるといわれています。
②の役員・従業員承継は、親族以外の役員・従業員に承継する方法ですが、経営者としての能力ある人材を見極めて承継することができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがあります。
③のM & A等は、株式譲渡や事業譲渡等により承継を行う方法ですが、親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがあります。
設例では、相続人の中に後継者候補がいるとして、被相続人が親族内承継を行うことを事前に準備していたケースを前提に検討します。

事業承継の「生前実現型」

現経営者が存命中に後継者に経営権を移譲し、経営者の相続が開始した後も、後継者の経営権に支障が生じないようにする対策があります。これを「生前実現型
」といいます。

事業用資産の売買

現経営者が、生前、後継者に対し株式等の事業用資産を売買する方法です。この方法では、売買した時点で、後継者が株式を取得し、経営権を早期に移譲することができます。
後継者が株式の対価である資金を有していることが必要になりますが、当該対価が適正である限り、株式は、現経営者の相続の際に遺留分算定基礎財産に算入されず、遺留分侵害額請求の対象ともならないので、株式の分散を防止することができます。

事業用資産の贈与

現経営者が、生前、後継者に対し株式等の事業用資産を贈与する方法です。この方法では、売買と同じく、贈与した時点で、後継者が株式を取得し、経営権を早期に移譲することができます。また、贈与である以上、後継者が株式の買取資金を有している必要もないというメリットもあります。一方で、無償の資産譲渡は、特別受益となるため、持戻免除の意思表示がない限り、遺産分割に当たっては持ち戻して計算する必要があります。また、遺留分算定基礎財産に算入され、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。

信託の活用

事業承継において信託契約を活用する方法です。例えば、遺言代用信託とよばれる手法では、経営者が、その生前に、受託者を信託銀行等として自社株式を対象に信託を設定し、信託契約において、自らを当初受益者としておき、経営者死亡時に信託を終了させて後継者が受益権を取得することとします。これによれば、委託者兼受益者である経営者の指図に従って受託者が議決権を行使しますので、経営者は、信託設定後も引き続き経営権を維持することができ、また、経営者死亡時には、後継者が受益権を取得する定めにより、後継者は確実に経営権を取得することができます。一方で、遺言代用信託をはじめとする信託についても民法の遺留分の規定が適用されると解されており、後継者が取得する受益権が多額の場合には、遺贈や生前贈与と同様に、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。

事業承継の「生前準備型」

現経営者が存命中に後継者に経営権を移譲する準備をし、実際に経営者に経営権が 移譲されるのは、経営者の相続が開始した時という対策を「生前準備型」といい、具体的には、現経営者の遺言や死因贈与を利用します。亡くなるまで現経営者の経営権を維持し、贈与税等の多額の費用支払を回避したいという理由で、多くのケースで採用されている方法です。
遺言の場合、自筆証書遺言の方法もありますが、遺言の有効性について疑義が生じること等を防ぐため、公正証書遺言を作成することが一般的です。
現経営者が遺言や死因贈与において、どの財産を誰に承継するかを明確にすることによって相続争いや遺産分割協議を回避し、後継者に株式や事業用資産を集中させることができます。
一方で、遺言や死因贈与を利用する生前準備型の場合、株式等の権利の移転が生じるのは相続開始時になりますので、円滑な事業承継という観点からは、会社資産の移転手続が意図したとおりに進まず、経営権の承継に支障を来すおそれがあります。さらに、現経営者は、死亡するまで、会社の株式を持ち続けますので、後継者への経営権の承継もスムーズにいかないおそれがあります。また、後継者に対する遺贈や死因贈与は特別受益となるため、持戻免除の意思表示がない限り、遺産分割を行う場合には持ち戻して計算する必要があります。また、遺留分算定基礎財産に算入され、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。

相続人や遺言執行者が注意すべき点
【遺言執行者、相続人(後継者)など事業承継を進める立場の場合】

事業の速やかな承継(遺言執行者、後継者である相続人)

生前準備型の場合に特に問題となりますが、会社事業に空白期間を作らないよう、後継者に迅速に経営を承継させるべく、遺言執行者としては、遺産を早急に調査して目録を作成して相続人に交付、特定財産承継遺言、事業用不動産の移転登記等を速やかに行います。なお、会社の株式に譲渡制限が付されていても、相続その他の一般承継の場合は会社の承諾は不要です。

会社に対する株主権を行使する者の指定(後継者である相続人)

株式を数名の相続人で相続した場合には、権利行使する者を定め、会社に通知する必要があります。権利行使者は、持分の過半数により決定するため、後継者である相続人が、単独で持分の過半数を有しない場合は、他の相続人と協議する必要があります。

遺留分への対応(後継者である相続人)

相続人が生前に株式の贈与を受けたり、株式の遺贈を受けたりしたとしても、他の相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、後継者である相続人としては、その支払原資の準備が必要です。支払原資としては、被相続人から承継する遺産のほか、借入れを含む自己資金、被相続人が後継者を受取人として指定した生命保険金の活用などが考えられます。また、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律では、金融支援についての特例を設けており、これを活用することも考えられます。なお、相続人に対する贈与については、相続開始の10年より前までのもの、また経営承継円滑化法に基づく除外合意がある場合には、遺留分算定基礎財産に算入されません。

特別受益に対する対応(後継者である相続人)

後継者である相続人に対する生前贈与、遺贈等について、特別受益であるとの主張がある場合、後継者である相続人としては、被相続人の持戻免除の意思表示のあることについて資料収集をして、他の相続人に説明、納得を得る作業をすることも考えられます。

後継者の代理人にならないよう注意(遺言執行者)

遺言執行者は、特定の相続人の立場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが期待されているため、特定の相続人の代理人となって活動をすることは問題があり、遺言執行者が弁護士の場合には懲戒事由となる場合もあります。遺言執行者として、被相続人の遺志に従うことは当然ですが、遺言の内容を超えて、後継者の代理人として活動することがないよう注意が必要です。

相続人や遺言執行者が注意すべき点
【相続人(非後継者)の立場の場合】

事業承継に対する協力要否の検討

後継者に対する事業承継に協力するか慎重に検討します。被相続人の債務は後継者以外の相続人にも分割承継されるため、協力を拒む結果、会社の事業継続に大きな影響が生じ、自らも責任追及されるケースなども考えられます。

遺言、生前贈与の有効性に関する調査、確認

経営者の判断能力が大きく低下してから、生前贈与、遺言の作成が行われることがあります。生前贈与や遺言作成時の経営者の健康状態を調査、確認して、生前贈与や遺言の無効主張を検討します。

遺留分侵害額請求に関する調査、検討

後継者に対する生前贈与や遺贈等の有無を調査し、遺留分算定基礎財産への算入、遺留分侵害額請求権行使の要否について検討します。遺留分侵害額請求については期間制限に注意します。

特別受益に関する調査、検討

後継者に対する生前贈与や遺贈等の有無を調査し、特別受益として持戻計算するよう主張するか検討します。検討に当たっては、自らに対する特別受益の有無・金額や経営者である被相続人の遺志等を考慮します。

まとめ

生前対策が採られている事業承継について、注意すべき点は次のとおりです。
(1)事業承継においては、計画的な事前準備が重要とされ、近年、様々な対策が講じられるようになっている。
(2)事業承継の方法には、①親族内承継、②役員・従業員承継、③社外への引継ぎ(M&A等)の3つの方法がある。
(3)事業承継の事前対策として、現経営者が存命中に後継者に経営権を移譲し、経営者の相続が開始した後も、後継者の経営権に支障が生じないようにする「生前実現型」がある。
(4)事業承継の事前対策として、現経営者が存命中に後継者に経営権を移譲する準備をし、実際に経営者に経営権が移譲されるのは、経営者の相続が開始した時という「生前準備型」がある。
(5)事業承継の事前対策が採られている場合、特別受益、遺留分の問題が生じるため注意が必要である。
今回は、生前対策が採られている事業承継について解説しました。わからない点がありましたら専門家である司法書士に相談されることをお勧めします。当事務所は、事業承継に関する相談もお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。

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